東京厚生年金会館にて若手花形特選落語会

演目一覧

 出演・演目は以下。

 前座にしてはやたら調子良くって巧いな、と思っていたら、調べてみたら一昨年既に真打昇進してる方なのだった。これは失礼しました。この会は前座置かない構成だったんすね。川中島の合戦(に、なぜか那須与一登場)の下り何ぞは立て板に水でございました。講談に転向してもやってけるんじゃなかろうか。

 出囃子の後会場が暗くなり、前奏とともにマイク持って高座の前に歩いて現れる。曲目は「ラストダンスは私に」。一体何が始まったのやと思ったら越路吹雪の一代記であった。――と、いうことにしばらく気付かなかったので、「長いマクラだの」と思って漫然と聞いていたのだった。良い話ではあるし笑わせるくすぐりもあるんだけど、話が進んで「――という、歌手越路吹雪の物語でございました」とか締められて「オチは!? ねえオチは??;」と呆然とすることしきり。やまあ、あの良い話に下手なサゲもつけられないかもしれませんが。でもこれ、独演会向けのネタだと思うな。他に正統派のネタと並べて見せられれば目先が変わって楽しいかも知れないけど。

 うーん、この顔ぶれのなかでいっ平は辛かったかもしれん。いきなり、前に出たばかりの元・義兄をネタにしてたりしたが、まあ噺家ちうのはどんなことでもネタにしてやってくものなので。しかし彼のやる元義兄のモノマネは、元義兄のやる彼と兄のモノマネほどの境地には達していないと見た。
 時事ネタとか身辺ネタとかの細かい話が連いて出たのでこれだけで行くのかと思って見ていたら、だいぶだってから「旦那さんが出掛ける」とかいう下りになる。なに、今までの全部マクラかい、とちょっと驚き。むう、それならもうちょっと脈絡つけて並べるとか何かした方が良かったかと。本編での小僧さんの饅頭の食べっぷりなんかはなかなか感心したから、主にマクラの問題ではないかと思う。
(仲入り)

 白鳥は初見である。黒地に袖山とか両脇に黄色のラインが入り、紋と背中の白鳥文様がやはり黄色で入るという「キル・ビルのジャージか!」というお召し物であったが、あれは狙ってやってるだろう。なかなか天晴れである。「マキシム・ド・呑兵衛」は白鳥の作らしいのだが、私はこの話、既に玉の輔がやってるのを見てるが、話が分かっててもちゃんと面白い。居酒屋の場所が綾瀬から板橋の成増になってたりとか、細かいところが調整してあるというのもあるのだが。これはこの先もいろんな噺家が演じて、平成の古典になったりせんかいな、と思うことだ。

 や、この噺はずるいよ。紙くずのよりわけをしながら見つけた本やらビラやらを読み耽って演じてしまう、という形式で、どんな話題でも音楽でも物真似でも取り込めちゃうんだから。今回たい平は花火大会の再現とか浪曲(これは元の噺からあるんかな)盛り込んでいた。しかし導入の「叩き飯ののし飯のそぎ飯のこき飯」は確か「湯屋番」あたりの下りではなかったろうか。元の噺にとらわれず、色々導入してるかもしれない。間に挟んでいた小ネタも一々面白いのだった。

 マクラは見覚えのあるような気がする紅白〜ゆく年くる年の話、明治神宮で初詣の話、海外旅行の話(座布団の上に寝っ転がる奴だ)、笑点出演に関わる話――に、独身ネタを絡めていた。で、これだけでいくかな、と思ったらいつの間にか夫のストレスを心配する妻のモノローグになっていて、それが「ストレスの海」なのだった。これが、あの、「ストレス御殿」に繋がったという。いやでも、爆笑ネタじゃないんですよ。オチはブラックだし、にやあ、と言う感じで。それはそうと今回ちび師匠は着物と袴だけのいでたちで出てきたのだが、どうやらあれは座布団の上で暴れても大丈夫なようになんじゃないかと。しかし羽織を着てこなかったのはなんでかな。話しながら脱いでる間がないと判断したのか。