「チェンジリング」を見る

 アンジェリーナ・ジョリー主演ということで宣伝されてるけども、クリント・イーストウッド最新作なんである。当然のように好評なんである。(アカデミー賞はなんで取り逃がしたかなあ;)
 そう言う訳でいそいそと見に行ってしまいましたよ。開演時間が迫ってたので前の方の席にしたらスクリーンが視界一杯ですごく見づらくて大変だったりしたけども、それでも楽しみましたよ。――というか、楽しい話じゃあないんですけどね。
 以下ネタバレを含むので畳みます。
 アンジェリーナ・ジョリーは今回、「ウォンテッド」あたりのかっこいいねーさんと同じ人とは思えないような、華奢で不安げなシングルマザーを演じとります。減量もしたんでしょうかね、これはこれで随分と巧み。(姿勢とか、立ち居振舞の演技のせいもあるかな?)しかし子供の行方不明のみならず警察の酷い対応に翻弄され、過酷な状況に堪えるうちにどんどん強くなって行く、という。
 それと、画面は全体にしっとりと美しいですね。冒頭、主人公と息子が暮らす家は、女手一つでといいながら瀟洒な一軒家で暮らしぶりは悪くなさそうだというのが見て取れるし、着ているものや家具、持ち物などもこぎれいな感じ。1928年のスタイルでも、働く女性としてかなりハイセンスな方ではなかろうかと。
 しかし酷い目にあって泣かされると、目元からはマスカラが流れるので、余計にやつれうちひしがれて見えるんですな。あと、普段の服装がきちんとしているだけに、精神病院のお仕着せの病人服が一層みすぼらしく見えたり。(ただし化粧に関しては、すっぴんのがきれいだわこの人、と思ったりしましたが)
 脇役もかなりいいところで固めているらしく。難を言えば、ジョン・マルコヴィッチが出てくるとなにか一癖ありそうな奴に見えるあたり; いや、ラジオで公開説教する牧師なんて、一癖二癖なかったらやってられないかもしれませんが、警察の腐敗した警部や本部長らの前では正義の味方に見えた、というだけかも。またもう一方の「悪い奴」として出てくる殺人犯のジェイソン・ バトラー・ハーナー(という役者さんだそうな。これまであんまり映画には出てなかったらしいですが)の気持ち悪さがすごい。顔は好男子なのに、やることが気持ち悪い。法廷で「あの人だけだ」とか言って主人公に共感するようなことを言い出すので、お前に分かられたかないわい、とはり倒してやりたくなるという。後に主人公が刑務所に訪ねて行く下りでは、何もどうもできないにしても、詰め寄ってののしるあたりにちょっとすっとしましたね。
 しかしラストは切ないですなあ。救いを残してはいるのだろうけど、どうなったかちゃんと分からない以上、母は探し続けるしかないのだ。それはそれで残酷なことではあるまいか。それに、戻って来た少年にしても、一方的に誘拐されて酷い目に逢わされてようやく逃げ出したのに、罪悪感にさいなまれて名乗り出られなかった、というあたりも。きっと、他にもこういう少年がいたんでしょうけどね。
 実はちょっと、昔いなくなったうちの猫のことを思い出したりしましたよ。そこそこで諦めをつけるべきか、と思いつつ、探すのを止めたせいでどっかで酷い目にあってないか、とか思うと、というのが。

 ところでこの映画の元になった連続誘拐殺人事件、今から90年ばかしも前とは言え、どうして埋もれちゃってたんでしょうね。これは犯罪史に残るような大規模な連続殺人じゃなかろうかと。数ではアンドレイ・チカチイロやペーター・キュルテンには遠く及ばないにしても、切り裂きジャックなんか目じゃないですぞ。