国立新美術館にて「ウィーン美術史美術館所蔵静物画の秘密展」を見る

 金曜は8時まで開館、ということなので仕事の後で出掛けていったのだった。国立新美術館は各会場が大変に広く、またこの展示は大きな作品が多くてゆったり飾ってあることもあって、周りの観覧者をおしのけることもなくゆっくり見られたのだった。
 「静物画」と銘打ってるけども、目玉としてベラスケスのマルガリータ王女像が入ってるあたり、要はフランドル絵画あたりからの流れを紹介した展示と思しい。まあ確かに展示作品の大半は静物画なんだけども。花とか、果物とか、狩猟の獲物とか。でも人物や風俗画の背景/小道具として描かれてるものを取り上げたり、メインが「静物」でも一緒に生きてる鳥や犬や蝶なんかをあしらってあるあたり、厳密に現代絵画の「静物画」と同じではないような印象であった。
 フランドル絵画が多かったせいか、全体の感じとしては以前見たベルギー王立美術館展に似てるかもしれない。ブリューゲル父子やルーベンスも来てましたし。そうそう、ルーベンスがあったんすよ。思わず絵の前で「パトラッシュ、あんなに見たかったルーベンスの絵だよ」とか脳内再生するけども、今回来てるのは「デカメロン」から題をとってるという「チモーネとエフィジェニア」で、ほとんど全裸で眠っているねーちゃんたちを見てるひげ面のおっさんの図なので、ネロ少年が「あんなに見たかった」とするとちょっと違うものを連想したり;しかしこれはこれで愉しい絵でよござんすよ。作者はピーテル・パウルルーベンスとされてますが、背景はヤン・ウィルデンスに、画面下の果物や犬やお猿はフランス・スネイデルスに頼んで共作してるんだそうで。特にこの、スネイデルス担当部分の、眠り込んでる女性達をよそに果物を巡っていがみあってる犬と猿なんぞ、なかなかリアルにお茶目で愛らしいです。――「フランダースの犬」って、もしかしてこういう「フランドル絵画の犬」のことだったりせんかいな、と思ったり。
 で、このルーベンスの「チモーネとエフィジェニア」のあるスペースと壁を一枚隔てたところが最後の部屋で、目玉の「薔薇色の衣裳のマルガリータ王女」が置かれてるんですな。まあ、むちむちころころとあいらしいこと。よく見ると、それまでの諸作品に比べると筆のタッチはむしろ荒く、後年のルノアールあたり(幼児像だしね)の印象派に近い感じもするのだが、それでも王女のドレスの細かなレースやら銀糸・金糸飾りが施されてると思しい豪奢さはちゃんと立ち上がっているのだった。むむう。
 さて、駆け足で一通り見て回ったもので、まだ閉館までちょっとあるな、というので前の部屋の作品を見に戻ってから出たのだが、閉館間際となると、ほとんど「マルガリータ王女」の前にしか人がいない状態になっていた; いや、目玉だけどさ。確かに可愛いけどさ。この展示なら、他にも見るべきものは色々あると思うんだけどなあ。宣伝の力か。それとも幼女の肖像が、眺めていて一番罪がなくて目に快いということか?