Bunkamuraザ・ミュージアムにて「アンカー展 故郷スイスの村のぬくもり」を見る

 そっちこっちで見かける子猫を抱いた女の子のポスターに心惹かれていたもので、一念発起して寒い中を出掛けていったのだった。あのポスターは卑怯だと思うの!
 アルベール・アンカーなる画家はスイスでは国民的画家なんだそうですが、欧州以外でまとまった回顧展が開かれるのははじめてなんだそうで。
 で、この方の絵というのが。基本的に妙に捻ったテーマや技巧的な仕掛けのない、日常的な人々の像――出品されてる大半が村の少女の像ですな。あと少年と、老人達が少し――なんだけども、これはこれでよろしい。まるまると血色が良く色白金髪の美しい子供達がほとんどだけど、老人の像を見るというとかなり重厚な陰影も描いているし。
 パリとスイスの田舎を行き来して暮らしながら、両方の人々をそれぞれ描いたということだけども、基本的に特に有名でも裕福でもない普通の人の情景を好んで描いたらしい。決して豪華ではないが、細やかな情感が表れてるというか。肖像画の仕事なども多少はしていたということだけど、日常的な生活の一場面を個人的な目で切り取って描く方が好きだったらしい。ポスターの子猫の絵に次いで好感を持ったのは自身の子供達を描いたもの(まだ乳児の息子達の死の床での絵、と、成長してつつましくも美しく装った娘達の絵)だけど、それもむべなるかなという感じ。
 誰にでも安心して見られる穏やかで落ち着いた絵ばかりなんで、捻りがなさすぎて退屈しないかと思っていたのだけども、そんなこともなし。神は細部に宿りたもう、というやつかもしれん。
 そういうわけで大変満足して、図録も買って帰ったのだった。見ながら誰ぞ似たような画風の画家さんがいなかったかな、と思うが、シンプルで写実的な画風なのに意外に思い付かない。後で、国立西洋美術館にあるエヴァレット・ミレイの「あひるの子」とかアングルの少女の肖像とか思いだしたけども。むしろレンブラントあたりのフランドル絵画の肖像画あたりのが近いかもしれんですな。時代背景とか地域とかは全く違うんですが。