損保ジャパン東郷青児美術館にて「〔特別展〕丸紅創業150周年記念 丸紅コレクション展〜衣裳から絵画へ 美の競演〜」を見る

 明日までだしこれは見ておかねば、というので新宿へ出掛ける。同じように考えた人が多かったのか、会場は比較的混んでいた。この美術館にしては、だが。
 最初の部屋で、年代物の小袖等の織りやら刺繍やら染め模様やらに目を奪われる。をををを。やはり私は工芸品に弱い。しかし絵画的に外観を鑑賞する以前に細かい細工やら手間やらに目を奪われるのは審美眼としてどうかとも思う。
 ところでどこかで見たような、というものもいくつかあったのだが、どうやら夏にサントリー美術館に出ていたものもあったらしい。また、後で図録を見たら、織物の展示品は期間によって完全に入れ替えていたらしい。そう知るとなんだか口惜しい。
 続いて日本人画家の洋画の間、次は洋画の間となっていたが、込み具合を見て、先に目玉を見ておくことにする。
 で本展の目玉、ボッティチェリ「美しきシモネッタ」。
 むむう。この服とか髪とか肌の繊細な描きようは、ポスターの印刷じゃ分からないな。実物は、かなり質感が分かるように描いてありましたよ。軽やかで軟らかというか。着ている服の赤も、場所によって違う素材(か、上に紗のような素材のストール等を掛けてるのかな?)なのが表現されてるし。
 モデルのシモネッタ嬢は視線を上げて遠くを見る横顔を見せているのだが、巻き毛がなびいているあたりからして窓が開け放ってあるか、バルコニーかといった様子なのだな。で説明によるとシモネッタ嬢も婚約者であったというメディチ家のジュリアーノ君も夭折したそうなので、見る者は余計に彼女の横顔に色んなことを想像してしまうのだった。

 さてシモネッタを堪能したので、日本画家の間へ戻る。気に入らないというほどでもないのだが、強く感心もせず。女の子の肖像画とか、微笑ましいんだけどね。
 続いて洋画。印象派あたりが多いようだったが、バーン=ジョーンズの風景画なんてものもあり。バーン=ジョーンズって見たことあったかな、などと思ったが、ウィリアム・モリス展などを見ているのだから見ている筈なのだった。ただ、ラファエル前派のバーン=ジョーンズ作品として出てくるのは大抵人物画(ステンドグラスが多いのか?)なので、風景画を出されても分からなかったらしい。あと、ユトリロで、珍しく晴れ晴れと明るい街角を描いた風景画があって、こんなのも描いてるんだねえ、と妙なところで感心したり。キスリングのミモザの花に目を奪われたり。赤い背景、青い花瓶、カナリヤイエローの花、なんて普通に描いたら落ち着かなくなりそうだが、ミモザの黄色は目を引くものの、赤と青がうまく抑えてあるので調和しているのだった。ところでなんかこの絵見たことがあるような気がしたのだが、ホテルオークラあたりで見てたかな。(ちなみにこの絵は人気があったらしく、絵はがきが売り切れていた。)あと、これは明らかにホテルオークラで見た覚えのある、モネの「税関吏の小屋・荒れた海」も来てましたな。
 でまあ、全体としてかなり楽しみはしたんだけど、どうしても言いたくなっちゃうのが、「とりとめがない」。一体何を目的としてどういうコンセプトで集めたコレクションなのか良くわからんのだった。
 いや、あるいは丸紅コレクションってもっともっと膨大な数があってそれぞれの分野で相応の審美眼の下に集められていて、そのうち特に美術品的価値が高い物をピックアップしたらなんだかとりとめがなくなっちゃった、ということかもしれんのだが。なんか、ばらばらなんですな。
 なかなか見られる機会のない作品を見られたんだから文句を言う筋合いではないかもしれんのだが。シモネッタ以外については、どういう意図の下に展示作品を選んだのか教えて頂きたいような気もするのだった。
#あの、特に気になるのが日本人画家の作品の選び方ね。欧州の画家の名作はまだわからないでもないんだけど、日本で印象派は人気あるし。でも日本人画家の方は誰がどういう経緯でどういう系統を特に力を入れて選択してたのか、というあたりが分かりにくい感じだな、と。
 まあなんだかんだ言いつつも、図録は買ってしまったのだが。シモネッタのキャプションと、小袖のためかもしれん。
 さて見終わった頃にはすっかり日が暮れていたので、46階からの夜景を堪能して、ちょっとお茶して休養してから、モード学園コクーンタワー下にあるブックファースト新宿店をうろつき回ってから帰る。
 このブックファーストが、思いがけず危険なところだったのだった。次は気力体力が充実してるときに来よう。