六本木アートナイト続き――立川談春師匠の落語、及びさまよえる人々

 そういうわけで落語だったのですが、しかし。
 開始時間は24時20分とか40分とかと聞いていたので、23時前くらいからアトリウムを望む一階上の吹き抜け周辺で待っていたら、23時過ぎに前触れもなく係員が現れて、閉め出しを食らう。ここからは見られないようにしますので、というのだった。じゃあどこで待ってたら見られるのか、と聞くと、外に並んでもらっている、という。
 そんな案内は全然してなかったじゃないよ!!
 仕方無く慌てて外の行列に並び、なんとか入場制限定員200名の最後の方に潜り込む。潜り込んだはいいけど予定時刻近くなっても案内が始まる様子はなく、さらに長時間震えながら待ち続ける。
 案内係の人々も困惑の様子で、整理券もどきのカード渡されてれは入れるとか、そんな話はきいてないとか、連絡が行き違ってるらしい。待ってる人々は苛立ってるし、ひっきりなしに新しく人が来て状況を聞かれるし、予想外の集まりように手が回らないような。
 しかし考えてみれば、談春をタダで見せるなんていったら、200人じゃきかない人数集まるくらい分かりそうだけどもなあ。普段は大都市部の独演会なら千や数千からの券を即日完売にしてるんだし。
 さて、登場した談春師匠は「すいませんねえ、寒いとこお待たせして」「みなさん苛々してるでしょう、あたしが一番苛々してます。」とか仰る。さらに、「開演前に英語のアナウンスってのは初めてです」「(この始まる前に流れた)開会の音楽、ヒップホップの予定だったのが、私に合わせて変えたそうです。テクノ。――いや、どっちだってこっちは分かりゃしないんですが」または「この会場で、あたしが一番場違い」とか言うたりする。
 だってこの時、観客入れる前の時点で、周囲のミッドタウンガレリアの通路やら店舗やらはほぼ閉められちゃって真っ暗になってんですから。規則だかでそうすることになってるんだそうで。「次にこんなになるのはつぶれた時でしょう」とかも仰る。ああ師匠静かに怒ってる、そらそうでしょう師匠江戸っ子だから。
 それでは、というのか、この妙な会場セッティングを生かしてそれらしいのを、と演目は「死神」。しかしこれは、談春独自バージョンだったんじゃないかな。普通はろうそくの場面でぽっくり死んで一巻の終わり、だと思うんですけども。いやなかなか、じわりとくるホラーに仕立ててある。

 ところで、あとでブログやmixi談春コミュで書かれた報告によると、200名から外れた面子のいくらかは、しばらく粘ってたら1階上の吹き抜けの所まで入れてくれたのだそうだ。ただし、吹き抜けは音響も悪く、実際にはほとんど談春師匠の声は聞きとれなかったとか。
 ――要するに、演目は正しかったけれども、セッティングや誘導やらはぐだぐだだったらしい。呼ばれた談春師匠こそお気の毒である。

 その後寒い町中で行き場のないもの達は、とりあえず青山ブックセンターに流れ込んでうろうろしてみたり、腹ごしらえをしてみたりするのだった。まあある程度はしょうがなかろうけども、あたりには行きどころなく彷徨う人々が散見されたのだった。春は名のみの寒さだったことが一層災いしていたようだけども、考えてみたら今頃の季節夜中の冷え込みは、それなりに厳しいですよね。
 さて気を取り直して、明け方の六本木ヒルズアリーナへ向かい、ヤノベケンジ作「ジャイアント・トラやんの大冒険」を見る。
 ↓ジャイアント・トラやん近景。

 これがにこにこ笑い顔のまま、口の中からは火炎放射器で炎を吹き出すのだった。完全自立駆動型とかではないのだが、両腕をぶらんぶらん揺らして、フォークリフトみたいな大型移動台車に乗って動くんである。長生きはしてみるものである。
 ただしこれ、深夜〜明け方まで寒い思いをして粘ってまで見るものか……となると微妙;朝け染める空を背景に立つトラやん、という構図はなにやらドラマチックではあるが。