サントリー美術館にて「小袖 江戸のオートクチュール」展を見る

 コミケの帰り道に寄ったのだった。
 この展示は「松坂屋京都染織参考館が呉服意匠創出のために収集した染織資料から」ということで、そういう意図を持って収拾された品々のお蔵出しという企画らしい。展示品は、小袖をはじめとする、江戸期の豪奢な染めや刺繍を施した着物が中心ではあるが、それに合わせてしつらえたり使われたりした、塗り物の化粧道具や文箱や、簪や櫛、舞台衣装の区画には能面などもあったのだった。また、衣装と同様に資料として保存してあったという、江戸時代のパターンブック「雛形本」も展示されてあったのだった。カラーでないのがちょいと残念だが、作り手が書き残した技術資料があるというのはいいですな。
 しかし、ものが絹や麻といった天然素材のことではあるし、さすがにいずれも相当年期が入っているので、褪色したり刺繍や縫い目などがほつれたりしているものも多々あるのだが、よくもまあこんな手間や金がかけられましたね、という品ばかりである。着物は衛門掛け(らしき棒状のハンガー、か)に掛けた状態で広げられているのだが、いずれも1枚の絵のような。しかし高価なものだけに、一度作ると仕立て直しなども繰り返しして伝えたらしく、「袖の柄があっていないが」という注釈がついているものも多いのだった。……しかしそら、どこかほつれたりしても、なんとか直して着たいでしょうなあ; だってどれを見ても、生地がただの平織りや綾織りのものがないし。必ずなにか地模様が入ってるの。紋所とか、菱形とかの連続の。その上に更に染めで絵を描いて、ポイント毎に散らして、とか、目立つ柄部分だけ、とかに刺繍施してあるの。
 やあ、こんな伝統やら技術やらがあったら、スカジャンみたいなものを作りたくなるよなあ、と、妙なところで納得。
 ただし古いものを集めたこの展示の中で、最後にひときわ目をひいたのは、参考作品として出品されていた、松坂屋が近年になって製作したという振袖だったりする。まあ予算と技術とセンスを結集すれば、現代だって相当なものが作れるということでしょうな。(でも大変なんだろけど;)
 この展示は入れ替えが多いらしい、ということで、直に鑑賞できなかった分の確認も兼ねて図録を買って帰る。眺めても愉しい写真が並んでいるが、実物を見た後だと縮小表示なのが惜しいようだった。
 でもね、あれだけ沢山小袖があったのに、小袖の手は一つも出てなかったよ? それとも、ヒトによっては見えたのかいな。