北沢タウンは遠かった

 夕方下北沢まで出かけた。北沢タウンホールにて「筒井康隆、筒井康隆を読む」なるイベントを観覧するためである。筒井康隆氏が自作の朗読をして、伴奏だか間奏だかが山下洋輔氏のピアノだというので。
 しかし、「下北沢駅南口から徒歩4分」なる北沢タウンホールになかなかたどり着かない。番地から見てそう遠くない筈だ、と思いながら延々歩いてしまい、近くの店に飛び込んで「北沢タウンホールへは」と聞いたところ「その先の踏み切り渡ったところから通路降りて反対側の南口に出て下さい。そこで改めて聞いた方が」
 ……あたくしはその南口から延々歩いて来たんですが、ぐるっと回って北口まで来てたらしいです。ああ、不条理なSFを書く作家さんのイベントだからって、こんな不条理なことが起こらなくても。
 まあ泡食って再度南口からスタートしたら、途中に何カ所か案内図も出てて、なんとか開演前に辿り着けましたけどね。しかしあの案内図、見る地図ごとにそれぞれ違う移動ルートを示してるのはなんとかならんもんか;いや、細かい路地がたくさん走ってるとこなので、たどれるルートがいくつもあるのは確かなんですけどもさ、見る案内毎に違う道順の線が引かれてるのを見て、なんだかとても異な気分になりましたよ。
 さて、朗読会はというと、予想以上によかったですよ。筒井氏は役者さんでもあるだけに、ただ朗読するだけじゃなくて、舞台装置/小道具なども揃えて、一人芝居のような感じに作ってありました。ちゃんと演出の方も美術も結構な方を立てておられる。って、このイベント、キャスト:筒井康隆山下洋輔のみならず、スタッフも凄いのだった。どうすごいって、↓こんなん

等等。

 冒頭、演目に入る前に筒井氏が、まず挨拶がてらこの朗読会を開くに至ったいきさつを述べられた。要はこの北沢タウンホールの館長・野際氏から、ここ何年か筒井氏の助手のような形で懇意にされている俳優の上山克彦氏を通じて、「筒井康隆を呼びたい」という話が来たとのこと。で、世田谷区から補助も出ることだし、折角やるならちゃんと客が呼べる物を、ということで、山下洋輔氏を呼び、演出家には、筒井氏の「断筆祭」などの際に演出を担当した高平氏を呼び、更に舞台美術を朝倉摂氏に頼んだという。
 聞いててあたくしは、ここでちょっと飛びましたよ。なんだかシンプルだけども凝った舞台のような、とは思ってたけど、朝倉摂とは。舞台演劇にはほとんど知識のない私ですが、そんな奴でも「朝倉摂」の名は聞いてるくらいです。
 筒井氏他のスタッフ・キャストの方々からしても、朝倉氏と言えば舞台美術の大家で、どうだろう、と思いながらも頼んでみたら、「いいわよ」と存外あっさり受けていただけたとのこと。ただ、当初天井からいっぱいに傘を吊す、なんて案もあったのだが、予算の関係上没になったりした、とのこと。

 さて、演目はというと、以下の通り。

  • 第一部
    • 朗読「おもての行列なんじゃいな」
    • ピアノ「Triple cats」
    • ピアノ「Things Ain't What They Used to be(昔はよかったね)」
    • 朗読/ピアノ「昔はよかったなあ」
  • 第二部
  • アンコール
    • 朗読/ピアノ「発明後のパターン・六十年代篇」
    • 朗読/ピアノ「発明後のパターン・現代篇」

 舞台装置としては、下手にピアノが据えられ、上からは中央当たり、演目等が映し出される不定四角形のスクリーン、上手には背景効果を移すスクリーンとしても使われた障子が釣られている。この下へ、第一部では、中央に小テーブルと椅子、上手には高座のような台があって、その上にちゃぶ台と座布団があるところへ、筒井氏が和服姿で登場する。小道具として一升瓶と湯のみが置いてあり、アル中親父のたわごとを、時々酒をついで飲みながらやる、という。(あれ中身は入ってなかったんじゃないかなあ。湯のみを置く音が軽かったような)
 その後山下氏のピアノ演奏を挟んで、ジャケット姿に着替えた筒井氏が再登場し、給仕が小テーブルにコーヒーを運んでくる。喫茶店の設定らしい形で、これも老人が、過去について法螺を語る。
 休憩を挟んで第二部になると、山下氏の「組曲筒井康隆全作品」は、演奏の間上部スクリーンに次々、年番号(西暦)を背景にその年の筒井氏の著署タイトルが映される、というもので、どうやらこのタイトル表示に合わせて演奏するという趣向だったらしい。しかし著書の数も年数も膨大なので、結構な大曲になっているのだった。や、激しい演奏があれだけ続くと、ピアノも結構スポーツですなあ。波瀾万丈の人生らしくて良かったですが。
 でピアノが終わったところで、ラフな黒のタートルシャツと黒スラックスに着替えた筒井氏が登場する。舞台装置はマイクスタンドと、演壇、その他に椅子にも使う直方体の箱が1つだけになっている。まあ、次の演目は考えてみたら激しいお話でしたからね……
 でこの「関節話法」、後半は場内爆笑の渦でありました。いや、元々可笑しい話なんだけども、考えてみるとあんなおかしな(どんどん下ネタが混じって行く)文をよく吹き出さずに読めるものだなあ、と。
 「発明後のパターン・現代篇」は書き下ろしだろうか。基本的にやってることは六十年代篇と同じなんですが。「やめろ、ケビンコスな」とか言っていた。ネタが分かるだけに六十年代篇より受けていたような。
 そういうわけで、場内大変満足して終幕したのだった。しかしあのネタの数々は、20代以下の観客にはちょいと辛かったかもしれん……ま、これをきっかけに昭和史を繙いてくれればいいなと思うけれど。

原始人 (文春文庫)

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