明治大学商学部特別講義 講師/佐藤亜紀 第四回を聞きに行く

 月に一度の連続講義の第四回を聞きにお茶の水明治大学駿河台キャンパスへ。

 今回のテーマは人間の「顔」ということで、映像資料としては以下の映画と写真集を参照しながら。

  • 映画「つばさ」(ウィリアム・A・ウェルマン、1927年)初期のゲーリー・クーパーが脇役の空軍パイロットとして出ているシーン。テントで寝ていたところに他の二人の兵士がやってきて、互いに自己紹介と握手をして、チョコレートを分け合う。「宙返りの練習だ」といって出ていく前のところ。ちょっとくずれてだらしなさそうなところはあるが、気さくな好男子で、恐ろしいような美形に撮られている。で、これは「死亡フラグ」とのこと。
  • 映画「戦艦ポチョムキン」(セルゲイ・エイゼンシュテイン、1925年)より、オデッサの港にポチョムキンを出迎える小舟の群れと人々。揃って朗らかに楽しそうな様子。(色々な人が映されるが、いずれも同じ喜びの表情で、個人の「顔」はない)
  • 映画「宇宙戦争」(スティーブン・スピルバーグ、2005年)より、米国最大の被災地で、夜の大通りを歩いていく人々の列。服装や容貌は様々で、無駄口を叩いたりもしている。踏切の前で止められ、通過する電車を見送ると、窓からは炎が上がっている。踏切が開いて移動が再開し、その中でダコタ・ファニングが顔を上げて夜空を見上げると、飛んでいく鳥達の群れ。そして山の稜線の上に浮かび上がる、巨大なトライポッドのシルエット。周囲の人々も徐々にそれに気づき、同じ方向を見上げる。群衆の全ての人々が、一様に恐怖に凍り付く。(巨大な恐怖の前に個人の「顔」は失われる)
  • 映画「シンドラーのリスト」(スティーブン・スピルバーグ、1993年)街角でユダヤ人の腕章を外すところから、教会(おそらくカトリックの)に入り、後ろの方の席で闇取引の相談をするシーンと、その後のユダヤ人達のゲットーへの移動のシーン。三人で缶詰/瓶詰の手配の話をしているところへ脇から男が声をかけてくるが、彼の胸にはナチスのバッヂがある。背後で、ばらばらと席を立っていく人々、そのうち密談の三人のうち二人も席を立っていくが、背後で「早く来い」と言う様子で振り返っていたりする。ゲットーへの移動のシーンでは、短いショットながら多くの人が映る。「シンドラーのリスト」は多くの登場人物を手際よく印象深く見せるのに成功しているとのことで、このシーンで映る人々のそれぞれにドラマがある。
  • 写真集"Menschen des 20 Jahrhunderts"August Sander(アウグスト・ザンダー)二次大戦中のドイツの肖像写真家で、1970年代以降に再評価された。依頼された肖像写真の他に、近隣地域の人々の写真を撮っている。被写体は、富裕層から一般の農民・商人・労働者、移民や浮浪民まで様々だが、いずれも撮られる当人の了解の上で、それぞれの身分・生活状況なりにきちんとした身なりでカメラに向かっている。このような写真を撮っていくことで、階層・職業や人種の類型分類というのを試みていたようだが、現実の人々の姿は当時の政府(ナチス)としては都合の悪い部分をも映し出す(身障者や浮浪民の写真など)ものもあり、またザンダーの息子が政治上の嫌疑を掛けられたこともあって、写真集やプリントは押収された。幸いネガは残されていたが、当時のネガはガラス乾板なので、空襲に遭って割れるなどかなりの数が失われているとのこと。

 今回もノートを取ったのだが、講義の詳細はいずれ。(て、前回についてもまだそんなだったような気がするわ;)
 さて、次回は年明けの12日で、最終回だ。