松下電工汐留ミュージアムにて「ジャポニスムのテーブルウエア−西洋の食卓を彩った”日本”−」を見る

 あまり評判にはなっていないらしいのだが、汐留でこういうものをやっている、と噂を聞いて出掛けていく。ジャポニズムそのものはともかくとして、ジャポニズムが入り込んだ19世紀の、後にアール・ヌーヴォーに至る頃の食器とか家具調度は個人的にツボなのであった。
 ほとんどの展示品は、それなりに高級とはいえ裕福な家庭で実際に使用のために販売されていた量産品なので、芸術品的価値から言えばそう飛び抜けて貴重な物ではないのだろうが、北斎漫画や当時の日本の陶磁器など、図案の参照元になったらしい日本美術と引き比べてみると面白い。
 そういや欧州旅行中に見た、それより前の時代のロココ等の装飾は、もっと豪華絢爛に隙もなく図象を詰め込んだ感じだった。それと比べればこの展示のような日本趣味の影響を受けて以降の装飾は、縁に流線型に花の図案を置くだけ、とか、随分すっきりしたものになっている。
 実際には影響を受けたのは日本趣味だけではなくて、中華の意匠やイスラムの唐草文様なども混じっているようだけど、実際の日本の美術とは違うものの、憧れが凝り固まって別種の何物かを生んだという気がするね。
 ところでこの展示では、展示品の食器やカトラリー、ランプなどを実際のテーブルコーディネートとして見せてくれるコーナーがいくつかあって、これは楽しいんだけれども、実は良し悪しだと思った。何故かというと、コーディネートの区画はロープで区切ってあってすぐ近くには寄れないので、ここだけに置いてある食器は、柄や形を近付いて見られないのだ。重ねて置かれていたり、他の物の影になっていたりすると、大変もどかしい。ティファニーのランプとかコンポートグラスとか、もっと近くで見たかったんだけども。
 比較的評価の高そうな物としては、ティファニーのステンドグラスの大ランプとか、初期のガレの日本趣味のガラス器・陶器が置かれていた。あとラリックも数点あったけれども、あれは当時は比較的普通に売られていた高級日用品であろう。これはこれでエレガントで美しいし、百数十年無事に残っていたことの価値はあるだろうが、日常的な使用に耐える簡素さという気がした。何物でも、取っておくもんだね。
 やや遅い時間に行ったので、最後の方は閉館時間を気にしながら見て回り、閉館ぎりぎりに図版を買って出る。ここに掲載の写真を眺めて改めて、このあたりの工芸品のラインナップにはまことに弱いと思う私であった。ほくほく。