「Dr.パルナサスの鏡」を見る

 これもあんまり、という評判も聞こえてはいたが、見ておかねばなるまいと思ったのだった。ヒース・レジャー遺作だし、テリー・ギリアムだし。
 で、まあ。
 うむ。場面毎については大変良かったですよ。ヒース・レジャーのみならず、他の役者の皆様も良い仕事をしてたと思うし。
 「鏡」の中で見る幻想世界について、安っぽくてダメ、という声もあるようですが、私的にはあれはあれでいいんじゃないかと。だって、コマーシャリズムに毒されたそのへんの兄ちゃんや坊ちゃんやおばさん達の見る夢ですぜ。そうそう独創的であるとも思われない。でもそんな中でも「川の流れが持ち上がって悪魔男の頭の蛇に」とか「向上心の梯子昇り→巨大竹馬」とかいう驚きのシーンもありましたしね。楽しうございました。パイプの仕掛けもちょっと膝を打ちましたし――でもああいう絞首刑は、実は窒息じゃなくて落下の衝撃で頸椎が骨折or脱臼して死ぬのだ、と聞いたことがあるんだけどなー?――楽しうございました。
 ただ問題わね。この話、誰を主軸にして見ていいのかわからない描き方をしちゃってるんですね。当初は、一座の呼び込みがかりとして苦労しながらヴァレンティナに思いを寄せるアントンの視点で描くのか、と思っていたら、どうもアントンは影が薄くなっちゃって、トニーの出現とともに全くの端役に退いてしまうし。中盤はトニーの視点で進むので、彼に感情移入しかけるのだけども、終盤に入ると突然そうではなかったらしい描き方に変化して、ヴァレンティナの哀しみや不安に寄り添ったように見えながら、最後はパルナサス博士の視点と独白で終わる。ああなんだ、これは博士の物語だったのねー……と、いうまとめ方ではあるが、どう考えても途中の経過は博士の物語ではなかったはずなのだ。
 そんなわけで、ストーリーラインのぶれ具合がどうにも気になるできではあったのだった。まあ見世物小屋馬車の造形とか、途中で劇中劇としてちょっと出てくる博士が過去に居たという寺院の場面(や、文化的にはすごく変ですけどさあ。鳥居らしきのもがある入り口から険しい山道を進んだ先に、チベット寺院かなんかみたいな建物があって、でもなんだか中に居る僧達の服装はジャポニズムっぽいの; どこだ、いつだあれは;; 博士の年齢は10000歳だそうだから、あるいは隠された太古の文明ちうやつかしら、とも)の眺めや衣装なんかも驚きでしたけどもね。
 やはりテリー・ギリアム作品は、場面毎の眺めや設定を楽しむものなんでしょうかね?;