「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」を見る

 話題のようだし、この週末までの限定公開だ、というので見に行ってみたのだった。特にマイケルを追っかけてた人間ではないのだが、私どもくらいの年代だと否応無しに見ている聞いているのがマイケル・ジャクソンであるという、骨身に染み付いたようなものなので。
 うむ、やっぱり憶えてる曲と動きは楽しいね。冒頭っから、コンサートツアーのためのダンサーのオーディションに集まった若者達の熱いコメントが入り、MJがどんなに愛され崇拝されていたか、というのが示される。何万人だかのオーディションの結果、バックダンサーズは十数名くらいが選ばれ、あとはリハーサルでMJが歌い踊ってたりスタッフと動きや演出を打ち合わせてたり、背景で流すための映像作成してたりする場面になるわけだが。
 見ているうちに彼がもう死んじゃってるなんてことはすっかり頭から消えていて、終わってから、このコンサートツアーの「本番」はもうないのだ、ということに気づいて愕然とする。なんて勿体ない。
 いや、勿体ないからこの映画にして公開したわけだろうけどね。でもこの映画にも出てない部分がきっと山のようにあるのよ。背景やイントロで流すために用意した映像なんてほとんどハイライトしか流してなかったし、本番用の衣装を作ってる、て衣装スタッフのコメントはあったけどもそれらしきものは映ってないし、歌に合わせて登場するので準備してる、というシャンデリアでのエアリアル(シルク・ド・ソレイユなんかで見せる宙吊りのアクロバット芸ね)も、ほんの数分足らずしか見せてくれなかったし。それぞれもっと映像のストックを使って、マイケルの曲のPV動画として売ったりせんのかな、ともどかしく思うことしきり。
 それと、もう作っちゃっててお蔵入りした映像や衣装などもだけど、さらに勿体なくて気になるのが、ツアーに参加するはずだったミュージシャンやダンサーの皆様方。マイケルのツアー参加を認められたくらいなら、ということで後の仕事は来易くなってるんだろか。作中に登場するギタリストの姉さんのCDが出てる、とかいう噂は聞いたけども、オーディションで採用されたダンサーズは? などと。
 惜しい、勿体ない以外の感想を言うなら。ええと、マイケル氏は何ぞ肌を晒すのにコンプレックスでもあったんでしょうかね? バックダンサーズが屈強な男達ばかりで、ヒップホップ系のルーズな格好だったり、Tシャツやタンクトップで腕や胸元をあらわにして汗臭く踊ってたりするのに対し、マイケル氏はずっとかっちりしたジャケットを着たまんま(比較的軽装でもカッターシャツ型の長袖シャツ姿で袖口がややひらひらするくらい)だったもので、マイケル氏の細身の体型が余計に気になる気がしたのだが。これが、今時こんなかっちりしたジャケットなかなか見ないよな、というようなデザインだったのだ。90年代くらいまでは流行ってたか、というような、肩の線を固く持ち上げてみせるような。流石にウェストを絞るなんてことはしてなかったし、くるくる回るとジャケットの裾が翻る、という効果を狙ってのお装束かなとは思ったけども。
 まあ流石というか、今時の流行とは違うだろう、と言う服でもかっこ悪くは見えないんだけど、細身で中性的な容貌もあってなんだか人間離れして見えましたな。ムーンウォークその他のダンスの動きのせいもあるんだろうけど。しかし今の時代だったら、もう「人間離れしたカリスマ」という演出にはなかなか向かわないんじゃないかな、という気もしたり。死んでしまった今だからかもしれないけど、やはり、長生きできるタイプの人ではなかったのか、と思ってしまったことです。
 あんな映像を見てしまうとなんだか死自体も嘘のようだけども。彼の魂が安らかでありますように。更に、行われなかったツアーの関係者の皆様が、マイケル亡き世界でも幸せでありますように。