Bunkamuraザ・ミュージアムにて「国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア」を見る

 あまりにもインパクトのある「忘れえぬ女」(原題は「見知らぬ女」らしいが)のポスターに引かれて、雨の渋谷へ見に行ったのだった。
 で――ええと、この展示のコンセプトとしては、トレチャコフ美術館の収蔵品のうち、特に19世紀後半に起こったリアリズムの画家グループを追う形で、印象派の影響を受けていく流れを追って、もっぱら風俗画、風景画、肖像画を集めた――ということでよろしいのかな。だから宗教画とか伝承に基づく物語絵などはなし。(いや、あるいは風俗画などの画面に置かれたなにかしらの品物が象徴的な意味合いを示す場合もあるのかもしれないけど、とりあえず解説では触れていない。)よって、予備知識なしで画面の印象だけで見られ、大変分かりやすい。
 しかし画風としては先日見たばかりのルーブル美術館展の、ルネサンス美術以降の形式を思わせるものが多かったような。例えば著名人(トルストイツルゲーネフチェーホフら文豪と、コンスタンチノーヴィチ大公ら)の肖像画なんか、アングルあたりの肖像画に似た印象だったし(まあ肖像画なんてそんなもの、と言われるかもしれんけど;)、印象派の影響を受けてる――といっても点描や筆のタッチの跡を画面全面に大きく残すよう描かれてるものはわずか――という作品なんか、ルノアールあたりを思わせるものも多かったり。
 ただ、全体に感じたのは、色彩のコントラストによる陰影表現が豊かなものが多いな、ということ。明るい夏の光で雲や樹木、人の姿が照らされる様子を示すとか、冬の風景画でも、積もった雪に日が射して、明るく暖かそうで長閑な印象の景色になってるところとか。よく見るとそう細かく描き込まれているわけではないのに、ポイントを押さえたハイライトや陰影のせいで、分かりやすく印象的な画面になっている感じ。
 そういうわけで、「忘れえぬ女」のみならず、各作品かなり楽しんだのだけども、ふと、こんなに西側風かつ現実的な主題ばかりなのが当時のロシア美術界の主流だったんかな、という疑問も湧くのだった。
 慌ただしいながらもそれなりに堪能して、図録を購入して帰った。