相模大野グリーンホールにて白石加代子「百物語」シリーズ第26夜を見る

 かねて見てみたいと思っていたのである。朗読劇、というか一人芝居である。
 演目は以下の3話。

 ただし、平家物語耳なし芳一は照明等だけで切り替えて、一場で。それはそうだ、作中で芳一が語る「壇ノ浦」の基礎知識おさらいとして、原典をやるわけである。
 というわけで、第一場は、舞台中央に高座のようにしつらえられた演台があり、書見台を置いて白石加代子氏が正座して開幕。お召し物は海老茶の着物に淡い緑色の袴である。御髪には珊瑚玉の簪がある。
 この演台、座布団を置いた中央部分が丸く切られていて、ここだけ回転するようになっている。その造りを除けばほとんど落語か講談か、という演じ方かに見えるが、始まってみると白石氏は台本を持ち上げ、内容に合わせて良く動く。海に飛び込むやら、太刀をふるい船から跳ね飛ぶやらの動作もしつつ、声色もまじえて語って行くんである。
 平家物語が終わると、照明がやや落ちて座面が回転する。で、背後に裏方さんが一人出て来ていてその補助で海老茶の着物を脱ぐというと、下は薄水色の着物を着込んでいる。この姿で「耳なし芳一」へ。
 芳一のあとでいったん休憩に入り、「杜子春」の幕が空くというと、舞台は演台を取り払って木製の衝立と椅子、そしておめでたそうな飾り物が吊るされた中華風の装いになっている。そこに白石氏が着替えて登場。黒地に裾には中国の山水画の模様、帯は唐獅子で、そこに牡丹の飾りをつけている。簪はピンクの花飾り――これは終幕間際に抜いて「桃の花」として語りと合わせる――であった。で、冒頭、白石氏によると、この舞台ならチャイナドレス? と思ったのだが、以前谷崎潤一郎あたりの演目でアオザイ――スリットが深く、しかもその下は生足――を着せてもらったことがあって、しかしこれはお身内等に大変不評であったとのこと。しかも演出家まで、着せておきながら「もうああいうのは――」という始末だったとか;
 しかし着物姿ながら、ここでも白石氏はよく動く。台本を手に持って、老人や杜子春や怪物、地獄の鬼や閻魔大王やらの動作で歩き回り、杖を振り上げ、襲いかかったりするんである。
 で。役者ってのは凄いものだなあ、と思うことしきり。白石氏は御年67歳になられる筈なのだが、声は力強く朗々とも嗄れて重苦しくもなるんである。か弱げな芳一も荒々しく恐ろしげな武者も一人でやるんである。閻魔大王として鞭打ちを命じるというと、座席まで震える迫力なんである。
 こういうものを見ておかなかったのは勿体ないことであった。今後も見られる限り見たいものであります。――が、「百物語」だから、残りは10話のみ(99話で止めとくのがお作法なんだそうだ)となっているのだった。ああ名残惜しい; 折角だからもう1セットくらいやらないかしら;(ああでも、人気の演目の特別編という可能性もありなのか。)
 ところで今回、チケット販売時の予定では、山村暮鳥「一夜の宿」が入っていたのだが、今回実際の舞台からは抜かれていた。構成上ということなので、多分場の変換や衣装替えなんかも入ると時間内におさまりきらなかったのだろう。しかしどんな話だったのかが気になる。山村暮鳥だし青空文庫に入ってないかな、と思ったのだがまだないらしいし、ぐぐるとこの百物語講演の関連情報ばっかり引っかかってくるし。
 この↓本には収録されてるらしいのだが。これで読むしかないのだろうか、ねえ。

一冊で読む日本の名作童話

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