「アラトリステ」を見る

 ベラスケス作「ブレダ開城」を再現してるとか言う話と、ヴィゴ・モーテンセンが主役の17世紀スペインが舞台の戦争・剣客時代物だと言う話を聞き、気になって見に行ってみる。ゴヤ賞で複数部門受賞とかいう話だし。
 以下、ネタバレも含むためたたみます。
 で。
 なるほど映像はちゃんとしているし、かなり渋くかっこいい。冒頭は霧の立ちこめる冬の河(運河だったのかな?)に銃と火口を持った手以外は浸かって敵陣に忍び入り、奇襲をかけるところから始まるし、戦闘は華麗な殺陣と言うよりとにかく効率よく無慈悲に殺すことに集中して泥臭い。仲間もばしばし死ぬ。街に戻っても貧乏で無頼な傭兵達はほんとにぼろぼろ埃まみれの生活で(きっと虱もいるわな;)でもお貴族や人気女優はそれなりに豪奢なものを付けてるし。建物の中の構図や採光の感じなんかは、ベラスケスあたりを参考にしてるんだろな、きっと。
 が。それぞれの場面場面は愉しんだんだけども、何というか、潔く展開の早い切替えと、情感込めて流れる各シーンとの間に、あんまりにもギャップが。シーンまたはエピソード同志の間を繋ごうとすることは、ほとんど意識してないんじゃないかと。
 例えば、女を巡って逮捕されそうになり、抵抗して最終的に仇敵と決闘になった場面など、あれは死んだだろう、と私は思ってましたから。後でイニゴが決闘するのも復讐戦なんだろうと思ってたので、戻ってきたとこに居るのを見て、え、まだ生きてるじゃん、と驚いたくらいで。
 あと、主人公と養い子のイニゴ以外の、無頼な男達の見分けがつきにくかったってのも大きいかな。途中、病床にふせってて、ほとんど殺す所だったのに邪魔が入ったのでやめた、というあの男はだれだったんだろうか? マラテスタ? 他にも、戦場や密輸船の上での戦闘何かだと特に芋洗い状態の肉弾戦なんで、誰が誰やら、て感じになっちゃってるし。分かりやすい説明なんてのに気を遣うなんて気ははなからなく、いいから分かる奴だけついてこい! というか。
 とはいえ、後になっていろいろ周辺情報を見て知ったんだけども、この話は元々5巻(現在の所)にわたる長編シリーズをまとめて映画化したので、各巻のエピソードをつなぎ合わせてるんですな。あと、原版では3時間を超す尺だったのに、日本公開版では130分だか145分だかにカットしているらしい、という。そういう話を聞くと、元がどんなんだったかものすごく気になるじゃないですか;
 そういうわけで、違和感はあるものの、製作者の意図通りの物を見てるかどうか分からないので現段階では保留。でも完全版を見られる機会があるかしら。