「容疑者Xの献身」を見る

 12月封切りの映画も出始めて、そろそろ空いた頃だよな、というので見に行ってみた。最終上映だったこともあって実際大変空いていた。
 ドラマの「ガリレオ」は特に追いかけてもいなかったのだが、原作の評判はかねて気になっていたことだったし(基本的にミステリとしての東野圭吾作品にはずれはないのだ。ほぼ、ないのだ)映画の評判からドラマはあんまり意識しなくていいらしい、と聞いたもので。
 で映画。
 うむ。ドラマと別にして見た方がいいんだろな。だってどう見ても主役は福山雅治じゃなくて、タイトルロールの「容疑者X」石神を演じる堤真一だし。
 当初、原作では小太りで髪が薄く、見た目はぱっとしないという石神を二枚目俳優の堤真一が演じるのはどうよ、という危惧もあったのだが、始まってみると、あまりの陰気さと不器用さで、どんどん醜男に見えてくるのに驚いた。他のドラマなどでは全然気にならなかった堤氏の厚みのある唇が、弛んでバランスを欠いたタラコ唇に見えてくるし。そうか、醜男って態度なんだな、と。
 福山演じる湯川が現れて(石神との対比のせいもあってだが、爽やかさがとてもいやな奴だ!)一緒に飲んで笑い合ったりするというと、愛嬌も見えてくるのだが。松雪泰子演じる想い人に電話するシーンなぞ、やっぱりなんともまとわりつくような厭な感じがするのだった。音響やストップモーションの演出のせいもあって、この話はホラーだっけ、サスペンスだっけ、と言う感じ。
 しかし、途中の雪山の下り(原作にはないそうな)とか、原作では湯川の推理の聞き手は大学時代からの友人の草薙なのを、柴咲コウ演じる内海にしてるあたりとかには、やっぱりなんだか無理を感じる。雪山のシーンはおそらく、アリバイトリックに迫る湯川を殺すか、という含みをもたせて振ってるんだろうとは思うが、聞き手の刑事を内海にする必要はあったのか。日頃の湯川を知っているが故に、珍しく動揺した様子を見てショックを受ける、という役所なら、原作通り草薙を配した方がよかったんじゃなかろうか。実際、最後の謎解きの時間をつくるための都合からか、草薙もずっと捜査に関わって出てきてるし。
 ――て、ドラマからの流れのせいでそれはできないのね; そうね;
 ともあれ、ドラマからの流れとしても湯川は登場しても、出しゃばりすぎずにちゃんと石神の物語を描いていたことは良かった。堤真一が不器用で陰気でみっともない醜男を演じきっていたこと(特に最後の、声が裏返っちゃうとことかね)、また石神に怯え動揺する松雪泰子などは収穫と言えましょう。あの隣人の美人母子は、石神の回想のシーンでは、ほんとに輝くように映し出されているしね。

 ところで、序盤で石神が出勤時に一々直していた、パンジープランターに立てられた飾り(鳥かなんかだっけ?)は何を意味していたのだろうか。中盤以後、花村母子に手を貸しはじめてからは、直さなくなっていたようだけども。