国立科学博物館にて「金GOLD 黄金の国ジパングとエル・ドラード展」を見る

 会期ももう終わり、というので駆け込みで見に行ったのだった。
 科学博物館のこの手の宝飾品素材展の例と同様、最初が科学的・社会的な背景についての展示で、その後に美術品や文化財に用いられた例の展示が来る。
 金の場合、実は宝飾品よりも工業利用の方が多い、ということで、日本国内での採掘の歴史、世界中での採掘の状況やオーストラリア等で見つかった塊状の金塊の実例/模型、それに金属加工での金の反応性(同じように溶液で処理しても銀や銅のように腐食や変色が起こらない)などが示される。プラスチックケースや留め金の中で、だが、金塊を手に持ってみるなんてコーナーもある。しかしパウンドケーキ型くらいのサイズでもう30キロとか50キロとかの重さになってしまうので、実際とてもじゃないけど気軽に持ち上げられるものじゃないのだ。
 鉱山での採掘についても歴史的・技術的な方面からの展示があった。実際かなり有望な鉱山の金鉱石でも含有量は重量の数パーセント程度にすぎないし、純金が粒状に埋まってるなんてことはないし(だいたいが銀やテルルなどの化合物)あるとしても金の粒子はミクロン単位のサイズなので、普通は肉眼では見えないとのこと。実際採掘後の精錬のための設備や手間を考えると、相当量の採掘が見込めないと運営は相当難しく、日本の国内で採掘をしてる金鉱山は現在鹿児島の菱刈鉱山だけになってるんだそうだ。佐渡金山も、随分前から史跡として残されてるだけだし。
 ただし、金が取れて美術工芸品、貨幣等に使われた、と言う一部イメージは東方見聞録を通じてジパングのイメージを固めてしまったらしく。文化的側面の展示コーナーには、平泉の金色堂や、秀吉の金の茶室の模型(これが。朱赤と金で、もうものすごい色彩で;)、各種大判小判、東博などから借りてきたという金蒔絵の文箱や飾り物、刀や甲冑等の彫金の細工物など工芸品が並んでいたのだった。当然の事ながら、私はケースにへたばりついて眺め回したのだった。うう、こういう細工物に弱くてだね。小さいのにちゃんと鳳凰の形してたり、花形とかあしらってあったりするのだ。
 しかし、今回の展示は「黄金の国ジパングとエル・ドラード」と銘打ってあるので、日本の工芸品だけでなく、コロンビアから提供された、黄金の装飾品のコーナーが別に設けられているのだった。これが。むう、確かに黄金だが。ほんとにぺかぺかの、金板打ち出しらしい細工物だが。先程江戸時代の精緻な蒔絵だの彫金だの見ちゃた後では、随分と大味だな、と思ってしまうような抽象形なのだった。
 いや、どっちが良い悪いじゃなくて文化の差異なんだけどもね。同じような素材使っててもどうしてこうも違うか、と思うと。まあそれがその筋の学識の方々には興味深いところでもあるんだろうけど。
 展示はこの後、貴金属やレアメタルのリサイクル、都市鉱山の可能性を示すコーナーを置いて終わっていた。携帯電話やら電子機器には大量に金銀プラチナ他レアメタルの数々が使われているのだから、ただ捨てちゃったらもったいないよ、という。まあ子ども達やリサイクルを意識したことのない人々のための啓蒙の場なんだろうけど、これはあんまり心配要らないと思うな。だって、回収できるとなればそれは商品価値のあるものだし。引き取って貰えば金になる、となれば、自然とリサイクルも進むと思うけどね。昨今、金属の値段が上がったせいで、電線やらガードレールやら金属製のカバーやらが盗まれているというし。
 問題は、基板から金やレアメタル等を安定して廉価に回収する流れが確立するかどうか、の方じゃないかなと。

 さて、ショップにはコロンビアのグッズや天然石、金をあしらった(純度の高い金も、単に金色の物も)等、色々と妙な物があったのだけども、結局「ジパング」と「エル・ドラード」の2冊に分かれている図録の、「ジパング」の方だけ購入して帰ったのだった。いや、コロンビアの遺跡の分布とか、面白そうな情報もあったんだけども、日本と科学・社会編を兼ねた方のが格段に内容が多かったし。何より、コロンビアの出土品には、全然心惹かれなかったのだね、個人的には;