試写会にて「おくりびと」を見る
ネット上などにある試写会観覧者募集にはほぼ手当たり次第に応募しているので、たまにあたることもある。今回はちょいと久しぶりでしたけども。
そういうわけで、9月13日公開予定の映画「おくりびと」の試写会に出掛けて行ったのだった。会場の有楽町朝日ホールは会場の広さの割にスクリーンがやや狭い感じではあったが、音響は良いようなのでまあ問題なし。
で、知らなかったんですがこの映画は、さそうあきらによる漫画の映画化映画の漫画化が出るんだそうで。(2008年9月訂正。漫画が原作ではなく、漫画の方が映画に基づくコミカライズだそうな)なんだか最近映画化つづきじゃないすか、さそうあきら作品。「神童」とか「コドモのコドモ」とか。
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しかし映画はというと、そこまでぶっ飛びもせず、良い役者を渋く丁寧に使って好印象。
で、物語。オーケストラのチェロ奏者の主人公は、客の入りの悪い「第九」を終えた後、主催者に突然「解散」を告げられる。折悪しく高い高い楽器(といってもプロにしてはお買い得なはず、なのだが、ものがチェロだから)を買ってしまったばかりで、他の団員達は薄々知ってたらしいことに衝撃を受け途方に暮れる。が、ウェブデザイナーの妻(広末涼子)に打ち明け、考えた後に、亡き母の残してくれた家のある山形へ帰ることにする。父は幼い頃に女を作って出ていっており、消息も知れないが、スナックを経営していた実家には、父の残していったレコードや、父の薦めで最初に弾いた子供用のチェロなどがそのまま残っている。
さて何か職を得なければ、というので新聞広告で目に付いた求人先へ出掛けてみると、社長一人事務員一人の会社「NKエージェント」に、履歴書も放り出され、何の仕事かも知らされないまま、採用になってしまう。しかもすごく条件が良い。仕事は、と訊くと、「ノーカン」。葬儀屋の下請けで、遺体を「棺に納める」という究極の隙間産業。古くは遺族が湯灌をしていたが、近年は専門職に任せられるようになり、消毒液で体を拭き浄めて経帷子を着せ、含み綿や化粧などで様子を整えて、という「納棺の儀」となっているのだった。それも遺族の前で、肌を晒さないよう布団や浴衣などで覆って進められる。
しかし、本物の遺体への仕事の前に「業務用の作業工程説明ビデオ」撮影で遺体モデル役をさせられたり(顔剃りで剃刀傷を作っちゃうのはお約束だ!)初仕事立ち会い、というので付いてったら、孤独死して2週間経過した老婆(荒れ果てた室内で虫がわき臭いも立つ)だったり。
それでも、遺族の前で遺体に敬意を払い、厳かに丁寧に作業を進めていく社長(山崎努)の姿や、最後に綺麗にしてくれたことへの感謝を示す遺族達を見るうち、主人公も仕事に誇りを感じ始める。
がしかし、そういう仕事だ、という事実を妻に言えずにずるずる過ごしていたところ、田舎の狭い社会のこと、実は噂になっていたのだった。わけもわからず飛び込んだ仕事故、本人は意識していなかったのだが、遺体の世話という仕事は「普通じゃない」「汚らわしい」とまで言われて――
と、いう、この周囲の職業への反感に対する戸惑い・悩みというのが一つのヤマであって、もう一つ、最後に持ってこられるヤマ場として、自分を捨てた「生き別れの父」への反感・怒りと、その消化、という流れが入ってくるのだった。チェロを初めとして、銭湯とか食物(ふぐの白子は旨そうだ!)とか「石文」とか、色々と効果的な小道具も良し。
しかし一番気になったのは、実は、会社兼社長宅として使われているレトロモダンな建物だったり。どうも、土蔵か何かを洋式に改装したもの、か何かに見えるのだが、よくこういうのが残ってましたねえ、という美しさで。しかも社長宅部分に置いてある長火鉢などは、年代物の古民具であろうか、という様子のいい代物なのだった。むむう、どうやって捜してきたんだろう。
加えて、山崎努とか吉行和子(同級生の母で馴染みの銭湯のおばちゃんという役所だけど、とても七十台には見えませんぞ!)とか、良い役者を集めてますしね。庄内の風景の中でチェロを弾くシーンなど、画面は全般に丁寧に美しく作ってあって、しかし物語は面白うてやがて哀しき、という感じ。幾分叙情に傾いて引っ張りすぎてるかな、というとこもありますけども、エンディングへの切り替わり具合などは却って潔いくらいかと。
デートムービーとしてもご家族向けや年輩の方向けにも(まあ、多少の濡れ場はありますけども)お薦めしやすいんじゃないかと思いますね。
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- 参考サイト(ちょっと対象は違うけど、見ていて思い出したもので。)
自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち