神奈川近代文学館にて 「生誕80年 澁澤龍彦回顧展 ここちよいサロン」を見る

 やっていることを知って、かねて行こうと思っていたのだが、幸い招待券をいただいたもので、いそいそと出掛ける。港の見える丘公園の薔薇園は丁度今が盛りであった。ついつい、わあい〜、白いの〜、赤いの〜、黄色いの〜、などと浮かれてふらふらして、観覧時間がなくなるところであった。
 それと、この港の見える丘公園には手前に大佛次郎記念館があるもので一瞬そこが会場かと思ってしまうのだが、実は展示館は更に進んで陸橋(「霧笛橋」なる)を渡った先にあるのだ。いかんいかん、こんなところで足をとられてはいかん、と先を急いだら、展示館前に猫がいるではないか! わあい〜おじょうさんどこ行くの〜、一枚撮らせて〜、などと現を抜かしかけるが、慌てて思い止まる。
 で、展示。
 以前浦和で見た「澁澤龍彦:幻想美術館」展と比べると、こちらは文学館だけに、書簡とか生原稿とか、新聞記事とか、著作に関する物が多かったですよ。絵やポスターや身の回りの物などもありましたが、さすがにオブジェなどは集めてくるのも難しいんでしょうね。金子國義作の少女像と、四谷シモン作の少女人形は飾られてましたが、多くは写真パネルなどだったような。
 しかし浦和の展示と比べると地味目とはいえ、華やかな人生ですなあ。良くも悪くも。悪さをしても人気者だったんだろうね、という感じが随所に現れている展示でございました。
 これだけ派手派手しいことを続けていれば、恨まれたり嫌われたりもしたろう、とは思うのだけど、こういう人に腹立ててもしょうがなかろう、という感じも。六十を前にしてあれよあれよという間に亡くなられたというのも、なんだか「高丘親王航海記」の結末みたいだぞ、という気がしてくる。――いや、ちゃんと読んでないんですけどさ; でもこの話、結末部分だけ引用してあることがままあるもので。今回の展示でもパネルに引用がありました。
 この機会にちゃんと読むかね、と思うことでありますよ。人格の是非は於くとして、SM嗜好も耽美文学もエログロも錬金術悪魔崇拝も吸血鬼や狼男の伝説も、秘密結社も毒草学も、この方――と、種村季弘氏と、あとは乱歩と横溝かな――がいなかったらここまで日本に広まらなかったのだ、と思うと。