「ノー・カントリー」を見る

 アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞助演男優賞を獲得したという、コーエン兄弟の新作。――と、いうことで、これを封切り日に見る仲間内の集いがあったのだった。思えばコーエン兄弟「ファーゴ」以来なのだった。

 で、見た。
 以下ネタバレなので畳みます。
 ああ不条理だ。ぱんぱんっとひとが死ぬし。犬も死ぬし。もう「殺す→奪う→追う」のシークエンスが説明されちゃうと、後の方ではどんどん省略されてくし。(鶏積んだトラックの爺様とか)
 殺し屋シガーは「レクター博士を超えて最悪」とか言われてるらしいですが、レクター博士と比べてとかなんとかいう問題ではないですぞ。最悪には違いないんだが、なんというか、これはヒトか、と。いや、彼なりに内面的にはヒトらしい条理があるのかもしれないけども、一般には理解できないねじくれ方じゃなかろうか、と。
 追われる男・モスが結構タフに巧妙に立ち回るんで、これは追いかけっこのドラマなんだな、と思い始めたところであっけなくやられるし。
 結局トミー・リー・ジョーンズ演じる保安官は、追いかけっこが始まって以降、モスにもシガーにも会うことなく、ただ結果を眺めて全て虚しくなって、退職を決めてしまうのだった。ラストは妻に語る、現在の心境を反映するような夢の話で終わる。考えてみるとこの構図は、「ファーゴ」の相似という気もするが、ファーゴの警官マージの明るさ、たくましさと比べれば、老いたベル保安官は、経験に裏打ちされた冷静さ・タフさはあるものの、はるかに内面が繊細なのだった。――ゆえに、より救いがない。

 まあ、狐につままれたような観了後の感覚ではあるのだが、それはそれで印象深いのは確か。しかし、こういうものがアカデミー賞をとっちゃうのなら、ハリウッドというところは思ったよりはるかに懐が深いとこなんですなあ。