「エリザベス:ゴールデン・エイジ」を見る

 雨だけど、風も強くてほとんど嵐だけど、東宝系は1000円で見られる日だ、というので行ってきたのだった。思えば前作は十年ほども前だったはずだがかなり楽しんだ記憶があるし、コスチューム歴史ものは見ておかんとな、ということで。
 以下、ネタバレを含むため畳む。
 で、映画。海戦がしょぼいのではないか、という危惧はまあ、「パイレーツ・オブ・カリビアン」諸作に比べたら確かに見劣りするものではあったのだが、それは比較の対象が悪いかもしれん、というところに落ち着いた。全体のバランスから言えば海上のシーンは確かに少ないのだが、結構頑張っていたのではないかと思う。(甲板上で動けなくなって藻掻いてる水夫達とか。うち一人はよく見ると足が半分もげてたりとか。あと「焼き討ち船」―戸田奈津子氏訳だが、こういう訳語が適切なのかどうか―の突撃とか)
 後になってみると、実際の海戦のただなかのシーンよりも、明け方海を見に出て、水平線上に炎上する無敵艦隊を見るシーンの方が印象的でしたな。あきらかに炎の中は阿鼻叫喚なのだけども、闇の中に浮かび上がる火の連なりは美しいのだった。
 あと、物語的には、陰謀の描き方が甘い、という声もあるのだけども。ウォルシンガムがただの心配性のじいやみたいになってたりするところなど、もっとどろどろしてるべきなのに、と。でもワタクシ的には、これもまあありかなと思いましたね。だって確かに晩年だし。短かったけども、拷問のシーンも挟んではいたし。問題はどっちかというと、誰が誰に対して拷問してたりグループ内の吊し上げてたりしてるのかが分かりにくかったことじゃないですかね。
 あとのポイントとしては、ウォルター・ローリーがそんなモテモテな男に見えない、というとこらしいのですが。私はそもそも彼は登場時からずっと、女王の恋人候補としては見えなかったですしなあ。若々しく野性的で希望と野心に溢れ、でもちょっとバカっぽいかも、という。目がきらきらしてるあたり確かに魅力ではあるのだけど、その若さと無謀さ故に、女王じゃなくて若い侍女のベスとくっつくんだろうな、と。(これは風呂のシーンでエリザベスも言っていた)
 で、女王が彼に惹かれてないかというとそんなこともないんだろうけど、どう考えても女王の立場では恋人にするなんてリスクが大きすぎるし、権力を振りかざしすぎて嫌われるのも恐ろしかろう、と諦めているところではないかと。ベスに対して「私の代理の冒険者」とか言っていたことからしても、元々彼女にならやってもいい、くらいの気持ちだったんではないだろうかね。――想像上の代理恋愛、という部分もあるかもしれないけども。
 だから正直言って、ベスを平手打ちにするシーンも、当初ちょっと意外だったり。うすうす分かってたことだろそんなの、という気がしたんだが。しかしあれも恐らくは、「想い人を取られた」という嫉妬よりも「深い仲になったことを隠してた」という、友人として裏切られた悲しみじゃないでしょうかね。
 ……なんか脳内補完所が非常に多いような気もするが。やはりこの手の話の観賞には、私は冷静ではないかもしれん。むむう。
 とりあえず、衣装とか調度など、画面は美しいですよ。それでいてちゃんと暗いし。牢獄やスコットランドの陰謀一味はちゃんとべたべたした感じに薄汚れてるし。コスチュームプレイ作品については、美術がいいだけで私はかなり点を甘くしてるかもしれませんがな。

 あ、ちなみにエリザベスが被ってる鬘はなべて変でしたな。兵士達を鼓舞するために馬上で被ってた解き髪だけが普通に見えたくらいで。現代人からしたら、地毛の少年のような断髪の方がよっぽど綺麗でかっこよく見えるくらいですが。
 あれはおそらく、白塗り化粧と合わせて「女王」という名のコスチューム/鎧なんでしょうなあ。しかしどうも、どこか滑稽味を加えちゃってる気がしていけませんや。おそらく歴史的資料には忠実なんでしょうけども。