なぜか埼玉


 なぜかという事もない、理由ははっきりしている。埼玉県立近代美術館「澁澤龍彦:幻想美術館」展を見に行ったんである。監修の巖谷國士氏の講演があるというので。
 しかし、埼玉一円、というか関東一円に、あんなに澁澤ファンがいるとは知りませんでしたよ。定員120人の枠の整理券が、午前中に切れちゃうんですもの。
 立ち見もできるけどそれなりに人数制限が、というのであきらめてゆっくり館内レストランでお昼ご飯を食べる。
 この美術館のレストラン「ペペロネ」美味しいですよ。基本はイタリアンらしく、メニューはランチセットと日替わりと時期限定の企画メニュー、あとは喫茶物くらいですが。現在の企画メニューは澁澤が住んだ浦和と鎌倉の食材を使ったもので、澁澤の名を冠するにしては普通だ、と思ったけど(や、だってつい考えるじゃないですか。目玉とか、女体盛りっぽくなってないか、とか)後で考えてみたらあれは、故人の食べていた好物、という意味もあったのかも。
 企画メニューとは関係なく、私は日替わりの「豚のカツレツ」を頼んだのだが、挽肉その他の詰め物を肉で巻き上げてクリームソースを掛けたような物が出てきたのだった。ふーん美味しいけどずいぶんさっぱりした豚だなあ、こういうカツレツってあり? と、思っていたら、後になってそれはカツレツが切れた後で出していた鶏挽肉料理だったことが判明。
 それなら「今日のメニュー」の記載訂正しといてよ〜!m(T△T)m ずっと豚だと思って食べ続けていたあたくしの立場は! ……美味しかったからいいけど。
 ちなみに店名の「ペペロネ」とはなんであろうか、辛いパスタ料理?(それはペペロンチーノ。)女性名?(それはペネロペ。)とか思っていたのだが、どうやらPeperone=唐辛子のことらしいです。多分。

 食べ終わってから、さて見ようかと二階に展示室に上がったら、反対側に講演会場が。もう始まってるけど駄目元で、と覗いてみたら、意外にも立ち見ではしっこに入れたのだった。澁澤と25年をともにした巖谷氏の、楽しげな思い出話を拝聴する。――が、最後まで拝聴していると展示を見る時間がなくなるので、後ろ髪を引かれる思いながら切り上げて展示に行く。
#後でネットに出ていた話では、後半スライドを見せながらの講義は予定を1時間オーバーしたそうな。巖谷氏は結局3時間ほども話し続けだったことになるんだが……;;
 まあ講演も惜しかったけど、この企画展って、展示点数が三百数十点からという凄いものなんですぜ。残り一時間半で見切れるか、と思いながらも、この方面の趣味の人間にはつい見入ってしまうような絵や写真やオブジェ等々が並んでいるし。
 展示は澁澤の趣味嗜好の変遷を反映して、時代順に並んでいるのだった。幼少期や少年期に触れたと思しい雑誌「コドモノクニ」掲載の絵にはじまり、当時の東京都内や鎌倉海岸の写真、直接関係はしないかもしれないが、澁澤が暮らした頃のままに残っているらしき建物や街角などの写真が並ぶ。そこから美術界、演劇会の関係者の写真、公演ポスター(横尾忠則によるコラージュだったりする)、当時出版したり献辞を寄せたりした書籍やパンフ等々が並ぶ。後に美術評論を書き始めた頃以降のコーナーには、著作そのものの他に、評論で取り上げた絵画も並ぶ。マニエリスムシュールレアリスムから琳派まで。そして勿論、親交のあったアーティスト達の作品も並ぶ。終盤には、澁澤本人は見ていないが、周囲や後年の人々が澁澤を偲んで作った作品が並ぶ。一番最後は、四谷シモンの大天使像。
 閉館のアナウンスに追われながらも粘るようにして見て回り、さらにミュージアムショップにも寄って、展示のカタログを買ってしまう。やあこれは結構な物ですよ。その筋の皆様にお勧め。
 ――でもこれ実は、これは普通に書籍として出版されたので、ネット書店等でも買えたのだった。↓ちくしょうっ、ネットで買えばポイントバック分割引になったのに!

澁澤龍彦 幻想美術館

澁澤龍彦 幻想美術館

 ちなみにこの展示、今後8〜9月には札幌芸術の森美術館に回った後、10月には新しく出来た横須賀美術館に行くんだそうな。海に突きだしたような土地に立つ新しい美術館に、海に臨むように四谷シモンの天使像を飾りたい、という巖谷氏のお話であった。
 ここも見に行くかな……ただちょっと、交通の便が悪いらしいのが気になるけど。