「あかね空」試写会に行く

 山本一力直木賞受賞作の映画化、内野聖陽中谷美紀出演、というので何気なしに応募してみたら、当たったので見に行ったのだった。それにしてもこのキャストで今月末公開にしては、あんまり宣伝とか聞いたことがないよなあ、と思いつつ出掛けてみたら、会場は年輩の方を中心にかなりの盛況であった。

 で。この映画で、一番印象に残った事はというと、
「わあきれい。
 まるで書き割りみたい」

 いや、背景のセットだかCGはほんとにそんな感じなんですわ。壮大で美しいは美しいけど、ぺらぺらと小綺麗すぎる。
 それに、映画にしてはテレビドラマっぽいというか。画面や台詞や演出に散見される、おそろしく既視感のある「お約束」にしても。
 主人公夫妻の着物や家や小道具については、まあ食べ物屋なんだからきちんと清潔にしていないといかんのだろう、と納得するけれど、でもなあ全般に、「江戸の庶民」の光景としては作り物めいて整いすぎているんですね。
 ま、テレビドラマ風に大仰な時代劇の「お約束」は、年輩の時代劇ファンが安心して見られるように、という選択かもしれないし。それと、主役二人についてはなかなか、とも思いましたね。内野聖陽は一人で、主役と後半に登場する重要なバイプレーヤー(いや、或る意味この話全体がこの人の物語だった、とも言えるのか)の二役を演じているのだけど、実のところ主役の豆腐屋・永吉よりも、中盤に登場する賭場の親分・傳蔵の方が、格段に良いのだった。この親分、坊主崩れで眉剃り落とした強面で、見るからに恐ろしげな風貌なんだけども、実は内心思うところがある、という複雑な役柄だし。
 サイトやビラなどの宣伝を見る限りでは、何故か前半の、若い二人の馴れ初めと豆腐屋として軌道に乗るところまで、のことばかりを取りあげているけれど、私にはこの前半、明るく爽やかで微笑ましいながらも、どうも何かが浮いているようなむず痒いものを感じて落ち着きませんでしたよ。大丈夫かなあ、こんな「絵に描いたような義理人情」だけで終わるんかなあ、と思いながら見ていたら、突然「18年経過した」ことになった後の、疲れも不安も苛立ちも見せるおかみであり母、の中谷美紀が大変によろしい。やっぱりこの方、どっか影があるとかピントずれてるとかする役の方がいいんじゃないだろうか。
 いっそ若い頃の馴れ初めの話は回想シーンくらいで端折りまくって、思わぬことで関わり合うことになった豆腐屋のおかみと賭場の親分の物語、にしたほうが良かったんじゃないかとも。ただ、そうするには背景として組み上げられている設定が複雑すぎるしね……(実際豆腐屋夫妻と子供達との関係についての設定説明はかなり端折っていて、傳蔵の部下が調べてきたこととして口頭で報告する、という形で触れるだけになってるけど)
 見終わった時点では、当初の不安が消えているくらいには楽しんだんだけども。ただどうも、もうちょっと構成を工夫したりはできなかったものか、と考えてしまう。あるいはこのお話は映画じゃなくて、落語か講談か何かでまとめるのが似合う話かもしれない、と。あるいはこの発想は、作中の悪役の中村梅雀の所作等に、とりわけ落語っぽいものを見たせいかもしれないけど。
 あ、それと映画の出来とは全く関係のないことだけど――この試写会で最大のマイナスだったのは、隣の席に来たおじさんから何か非常に気になる体臭が漂ってきていて、ずっと鼻をハンカチで抑えてなければならなかったことだったり……;;

蛇足:

  • 出る途中近くにいた年輩の方の話を聞くともなしに聞いていたら、傳蔵親分についての重要な設定が理解出来なかったらしい。いやあの、台詞ではっきり説明とかはしてないけどさ、回想シーンで同じ物見せてたし、割と分かりやすいと思うんだけどなあ、あれは;
  • 開演前に角川映画のいくつかの予告を流してたけど、鈴木光司の短編「夢の島クルーズ」米国で映画化されたそうな。

ドリーム・クルーズ(cinemacafe.net)

仄暗い水の底から (角川ホラー文庫)

仄暗い水の底から (角川ホラー文庫)

 主人公の役所は白人男性になってたり、亡くなった妻の怨みが、という話になってたり、かなりアレンジされてるみたいだけど。