「ドリームガールズ」試写会に行く

 観覧券が当たった物で出掛けてきましたぞ。ビヨンセエディ・マーフィージェイミー・フォックス出演で送るミュージカル映画大作、ゴールデングローブ賞のミュージカル/コメディ部門作品賞、助演男優賞エディ・マーフィー)、助演女優賞ジェニファー・ハドソン)3部門受賞、アカデミー賞8部門ノミネート、という。
 元はブロードウェイミュージカルなんだそうで(1982年トニー賞受賞とか)モデルにしているのはダイアナ・ロスとザ・シュープリームスを中心にした、60〜70年代の米国音楽シーンの軌跡(特にブラック・ミュージックが白人視聴者層に食い込んでいく過程)。もっとも、それぞれのキャラクターにモデルはいるものの、かなり脚色が入ってるそうだけど。
 感想についてはネタバレが入るので、以下折り畳み。
 確かにショーシーンは華やかだし音楽は見事。楽しく見られる作品だと思う。
 それでもなんとなく物足りなく感じてしまうのは多分、物語の本筋の筈の、ビヨンセ演じるところのディーナの成功と喪失よりも、対比して描かれる初期メンバー・エフィ(演じるジェニファー・ハドソンは「アメリカン・アイドル」でデビューした新人なんだそうで)の転落とカムバックの物語の方が、よほど鮮やかだからだろう。
 あるいはこれは、プロモーターとして汚いことに手を染めながらのし上がり、ブラック・ミュージックを全米ヒットチャートのトップにまで押し上げた、ジェイミー・フォックス演じるカーティスの物語なのかもしれないが、どうもそのあたりのバランスが掴みきれないのだった。群像劇としても、メインといくつかのサブのストーリーの絡みとしても。
 要するに、メインを張らせるはずのビヨンセ演じるディーナが、キャラクターのインパクトでは、エフィやカーティス、エディ・マーフィー演じる大物歌手ジミーに負けているということかと。ディーナにもちゃんと、エモーショナルな見せ場もあるんだけどね。確かにビヨンセのスター歌手ぶりは美しく、ショーの場面は鮮やかなんだけども、プライヴェートのドラマ部分がお人形のように薄い感じ。で、その薄いところへ持ってきて、夫であるカーティスが自分のディーナへの惚れ込みようを切々と訴えるバラードが入ったりするものだから、ここはカーティスに目を向けて見るべきか、と思っていると、その後はさほど丹念に描かれもしなかったり。
 あと、ご家族で明るく楽しく見るためかも知れないけれども、全般に汚い部分・重い部分はさらっと流して、小綺麗にしすぎてるという感じも。これは、同じミュージカル映画でスタッフも共通してるという「シカゴ」と比較してしまうせいもあるかもしれないけど。
 この映画にも、不倫、裏金、剽窃、ステージ裏のトラブル、男女の修羅場、ヤク中、落ち目への不安、と、どろどろした要因はいくらでも出てくるのに、いずれも深く描かないで進んじゃうのだった。(例えば、ジミーはスター歌手の座を守りながらもヤクに溺れていくのだが、それはヤク「らしき」包みを取りだして恋人ローレルに止められる、としか描かれないし、最後まで窶れた様子はない)で、「あなんだ大したことなかったんだ?」と思って見ていると「ひどいことになった」結果だけが後に軽く投げ返されるという。
 確かに楽しく見られるんだけど、愉しみながらも「これはオトナの欺瞞ではないかい?」というひねくれた気持ちが沸き上がってくるのだった。例えば、エフィがリードを下ろされて怒るのを兄のC.C.(「コードギアス」とはとりあえず関係ない。念のため)が宥めるシーンなど、なし崩しに美しい"Family"のバラードになだれ込んでまとまってしまうのだが、要は「お前がメインじゃ売れないから大人しく下がれってことなんだよな」と思ったり。
 そういう、綺麗で健康的に作ってるが故の軽さ・薄さは随所に見られますな。多分エフィやジミーの転落ぶりや、成功しながらも空疎さを感じるディーナやC.C.の焦燥も、もっと生々しく描くことで、再帰・大団円の盛り上がりへ持っていくこともできたんじゃないか、と思うのだけど。
 なんだか、前評判が高いだけに、また音楽と踊りは楽しめるだけに、どうも収まりの悪いところが目についてしまうのだった。ミュージックビデオだと思えばいいのか。サントラは評判良いみたいですが。

 ちなみにジミーのモデルの一人であるジェームス・ブラウンは、ヤク中で夭折もせずつい先日73歳で死去したけれども、その一方、エフィのモデルであるシュープリームスの初期メンバー、フローレンス・バラードは、転落したまま貧困のうちに32歳で亡くなってるんですなシュープリームス解散の前年に。(Wikipedia英文)だから当然、解散コンサートに特別出演なんてこともなかった。運命の皮肉というか、事実は小説より何とやら。
 というかこの物語は、そのくらい安心して味わえる「お伽噺」に作ってある、ということかもしれませんが。