赤坂ですぺらにて「音で聴くツハラヤスミ」

 津原泰水氏のバンド「ラヂオデパート」(少人数構成なので一説には「ラヂオ商店」とも)と、短編作品の朗読、オークション(津原氏とバンドメンバーの飲み代捻出用、らしい)、そして最後に脚本家/作家の小中千昭氏とのトーク、というイベント。実はですぺらは二回目なのだが、前回は場所が分からなくてしばらく迷ったりしたもので、今回は常連のS氏にお願いして、駅で待ち合わせして連れて行っていただいた。ありがたやありがたや。(いや、あれは知らなかったら分からないわー;)
 さて、飲み物が回ったところでライブ開始。
 ラヂオデパートのオリジナル曲は、幻想的だったり哀愁を帯びていたりする歌詞を、軽快な曲に乗せて飄々と送るという感じ。ヴォーカルの小山亜紀氏のパンチの効いた歌声が合っていた。(ちょっとジャズとかラテンっぽいかな)
 この後、津原氏提供の生原稿(手書き原稿があるのね、今時珍しく;)とか、「少年トレチア」の使用されなかった表紙の束見本とか、津原氏の私物の帽子などがオークションに掛けられる。驚いたことに生原稿と束見本は、みるみるうちに数万の値にせり上がり、出品者側が介入して数千円に引き下げさせ、じゃんけんで決着を付けて貰うことに。帽子類は百数十円のオーダーでちまちま推移したが、ここは「高額ではなく面白い数字でせった人に」という形で決着した。(ちなみにハンチング帽を落札したねこちさんの落札額は「193円」であった)
 朗読は、声優栗田ひづる氏によるもので、新作書き下ろし「琥珀みがき」と「綺譚集」収録の「古傷と太陽」を。(これは前回のイベントの再演)声の調子やテンポ、間などは、全て栗田氏自身の解釈によるのだそうな。所々に入る、溜めの間がなかなか恐ろしい。
 最後の小中千昭氏との対談は、一応「恐怖の手順(仮)」というタイトルを設けてあったらしいのだが、話の内容はそんなタイトルにはお構いなしな感じでスタート。最初は二人の馴れ初めと言うことでしばらく音楽の話(小中さんはベーシストで、「チョッパー奏法」ができるんですよ、とか)に興じたり、創作の苦吟の話から、実は「赤い竪琴」のドラマ化の話があったんだけど、あんまりにもあんまりなんでぽしゃった、という話や、小中氏が今度「ミラーマン」をやるんだけど平成解釈として「言霊の力」を織り込むんだとか、また鶴屋南北の「四谷怪談」を深夜アニメでやるんだけれども、南北の構成をできるだけ忠実に取り込んで、血みどろの殺戮劇で終わるように書いたら、作画スタッフが「こんな怖いのできません」って降りちゃった、とか、恐怖と言えば楳図かずおさんと会って話した時に、とか、お家にお邪魔したら、等々、そんなこんなに話が飛びまくる。
 でまあ、まとめらしき所としては。「ホラー映画の魅力―ファンダメンタル・ホラー宣言 (岩波アクティブ新書)」などで小中氏は、実話系ホラー番組製作の経験を元に「恐怖を生むのは段取りである」という方法論を提唱していたのだけど、近年ではそれを使うパターンもだいぶ消費されてしまっていて、また新しい工夫が求められる所に来ているのだそうで。ただし、小中氏からすると津原氏の作風は「怪奇」であって「恐怖」とは違うらしい。(これは、対談の内容を私が正確に捉えているかどうか、ということになるのだが、「怖がらせる」つもりで書いているかどうか、というスタンスの違いではなかろうかと)どちらにせよ、「恐怖」「怪奇」なるものを、再度改めて問い直してみるか、という考えはお二人とも持っている――というあたりで時間切れとなった。
(上記まとめは私の記憶で書いてますんで、トークを聴いていた方で「違うぞ」という部分がありましたらお知らせいただけますと幸いです)
 ――で、これらのプログラムを聴きながら、私はわりと貪欲に飲み食いしていたのだった。唐揚げは揚げたてが美味しいね、とか、おおローストビーフだ、米国産牛肉が入り込む前に食べとこう、とか、具だくさんのスパニッシュオムレツがスパイシーで旨いな、中身何だろう、とか、スライスバゲットにのっけて食べるチリビーンズは美味しいんだけどあんまり回ってこないな、とか、口直しにさっぱりとクリームチーズ添えスライスバゲットもいただこう、とか。加えてアルコールもそこそこ入っていたのだった。ペースを落として途中ソフトドリンクも頂いてたとはいえ、ほとんど赤ワインで食べてましたからなあ。我ながら食には貪欲なことでありますよ。いやでも美味しゅうございました。
 ――って、でもあれは多分食がメインの企画ではないんだが;