「デュプリシティ 〜スパイは、スパイに嘘をつく〜」を見る

 TOHOシネマズの割引日なので映画。ジュリア・ロバーツクライヴ・オーウェンをメインにした産業スパイサスペンス/コメディ/ラブ・ストーリー、である。
 以下、ネタバレを含むので畳みます。
 ええと、先日見た「バーン・アフター・リーディング」もそうだったけど、要するにこれは、従来の幾多のスパイ映画のお決まりの形式を逆手に取ったコメディなんですな。機密保持と機密破りのプロ達がやりあうのは国家の安全のため、ではなくて企業運営の安全のためなのだけど――というより、実のところここでは社長同士の私怨のため、という理由が主かも; そうであることは序盤、主人公二人の出会いのシーンの後に挿入される、雨の飛行場のシーンで示される。(うああ、大人げない; こんな人たちが社長てちょっといや;)
 途中、カットバックで何度か主人公達の過去の場面が挿入され、二人の意図が明かされて行くのでちょっと複雑な構成ではあるのだけど、元がMI6とCIAのエージェントであった二人は、男女の仲でありながらもお互いに腹を探り合い駆け引きを繰り返す。――というか、特にジュリア・ロバーツ演じるクレアの方にその傾向が強いように見えるのだが。で、この男女はどうして再会するたびに毎回世界中の別の街の、それぞれ広くて居心地の良さそうな部屋でもってシャンパン開けてるのかなあ、と思うところだが、これはおそらく007シリーズあたりから続くスパイ映画のパターンをなぞっているのですな。主人公二人の会話も、同僚である産業スパイ達との会話も、捻り具合はどうも従来のスパイ映画を意識していると思しい。そも監督/脚本のトニー・ギルロイジェイソン・ボーン三部作の脚本家なんだそうで。(ところでどうでもいいことかもしれんけども、前に見た「オーシャンズ13」で登場した媚薬の名前はここらから来ているのだろうか。で、それをマット・デイモンが使うのがミソと。)
 しかし企業同士の情報戦が一応の終結を見るというと、物語の主軸はやっぱりラブ・ストーリーだったという描き方になる。遠い欧州の空港でさんざっぱら待たされたり、とかね。良くも悪くも甘々な展開だけども、スパイ映画的にはそこでは終わらないのだった。
 いやなに、見ながらそんな気はしてましたよ。こちらが先方にモグラを入れてるなら、先方だってこちらにモグラを送り込んでいて不思議はない。チームのうちの誰だろな、とは思ったけど、やはり目につく人がそうだったというのが明かされる。それと旅行会社への侵入についてだって、ここだけ手薄になっている、ということを示された段階で、普通は罠なんじゃないかと疑うでしょ。何故主人公達のチームは疑わなかったか、というのがどうにも解せない。それと、問題の化学式にしたって、他の同僚がいったん盗んだというだけであって、本物である保証もない。仕組まれてガセネタ掴まされた可能性、とかは考えないか。考える余裕を与えられなかったか。
 というかね。考えてみればそもそも、「何年も新製品を出していない」会社に、ここまでの布陣で機密情報を破ろうとする、というのがおかしくないか?;
 いや、社長同士の不仲のせいという理由はあったんだろうけども、探ったところで新製品とか何か有力なネタがある保証も何もなしにモグラまで仕込んで動くのはどうなのかと; あの新製品のことが表明されるまで、彼らは一体何を求めて働いてたんでしょう?; なんでも良かったのか、先方の社長に繋がる情報とか、何かしら足を引っ張れそうなネタなら??;
 ――て、色々言いつつ大変愉しかったんだけどね。主人公二人の各地でのやりとりとか、どう見ても自分より野暮ったい女を尋問して「彼は特別な感じがしたのよ〜!」とか泣かれるシーンのジュリア・ロバーツの憮然とした表情の複雑さとか、化学式を盗む! 送る! どっから!? というシーンの緊迫感とか、全て済んだところでの二人の脱力具合とか。(ここでシャンパンを贈ったのは、二人のやりとりを承知していればこそのいじわるですなっ)なんだかヒット具合は今一だったみたいなんだけども、濡れ場はあっても生々しくない感じだし、知的な大人のデートムービーとしてもいいんじゃないでしょうかね。