「グラン・トリノ」を見る

 日中見た人々の評判に触発されて、せっかくなのでシネコンではしご。クリント・イーストウッド監督・主演作品。
 融通の利かない堅物で、人種的偏見にまみれたじいさんと、隣家に住む黄色人種部族「モン族」の少年との交流を描く。少年とその姉のモン族の若者二人(と、少年が想いを寄せる同年代の人気者の少女、もかな)の真直ぐな気性も好ましいのだけど、やはり「爺さん格好良過ぎ!」な映画でしょう。古き良き時代のアメリカの男、というか。時代遅れだけど誇り高い、ちうか。
 やあ、差別語にあふれた物言いでも、この年であらゆる人に対して差別的、ってのはいっそ清々しいものがあるなあ、と感じたことです。モン族の女の子に絡んで来た黒人不良少年達を脅しつけるにしても、友達である女の子よりもギャングどもに慮るような態度を取る小物の白人少年をくさすにしても、どちらもけっこう情け容赦ない。お年の割には無茶してるとも思うが。
 当初は、くそ、イエローが、とか言ってたのに、女の子の勇敢さと頭の回転の速さ、物怖じしない柔軟な態度にほだされて、一族の宴会にご招待なんか受けちゃったりして、つい料理がおいしくて和んじゃったり、今時の米国人である息子や孫よりも、よっぽど年長者や家族への礼儀ちうものを知ってるんじゃないか、とかいう感じで馴染んじゃったりする。意外なところに友情は潜んでいたりするのだった。
 物語の主流は、学校にも行かず職も見つからないらしい少年との交流なのだけども、その姉の気性に一目置く、というところも重要な要因なんである。後半に入ったあたりで「ドラゴンレディ」とか呼んでるのは、きっと彼なりの尊称なんだろな。それだけに、状況が厳しさを増して痛ましい事件が起こるというと、気持ちを寄せはじめていた彼もがっくりと傷つくのだった。
 ただ、喀血とかいう図は、ドラマとしてちょっとベタすぎじゃないか、という気もしたけども。

 ところで、2本続けて見たら、図らずも差別と暴力が強い印象を残すものが並んでしまった。偶然か、あるいは近年の映画の流行かなんか? まあ差別については、ようやくそういうものを撮って公開できる時代になってきたよ、ということなのかと思うけど。