「K-20 怪人二十面相・伝」を観る

 これは実は、出来がどうであろうと見ておかねばだったのだった。こちとら少年期は乱歩とルブランとドイルでできてるのだ。(後年ここに横溝が塗り込まれる)怪盗だ、活劇だ、オルタナティブヒストリの日本帝国だ、と言われたら見ておかないわけにはいかないのだった。
 で、見てから気が付いたが、これは佐藤嗣麻子監督作品だったのだった。佐藤嗣麻子氏といえば以前の「土曜ワイド劇場」の横溝風タイトルバックを作った方なのだった。最近ではフジテレビの特番の金田一耕助シリーズ(稲垣吾郎金田一な。)の脚本を書いておられるのだった。(ちなみに異形コレクションにも執筆されてる
 しかしドラマ自体はというと、おどろおどろなサスペンスというよりも陽性の活劇だったのだった。舞台は第二次世界大戦が回避された世界の1949年(いいけど開戦せずに回避されたんなら「第二次世界大戦」て言わないんじゃ。「太平洋戦争」は言うかも知れないけど。)場末のサーカステントで芸を披露している軽業師兼手品師である平吉は、金のために華族の婚約披露の席を高所から撮影する仕事を請け負うが、それは怪人二十面相の罠であった――!!
 と、結論から言ってしまえばこの活劇は大変よかったですよ。何より美術が。一々ちゃんと古色や汚れがついて貧しげだったり猥雑だったり歴史や威厳を感じさせたりするのにちょっと関心。お金持ちの華族――羽柴ビルや羽柴家や明智のオフィス――の内装などは、おおお、これデコじゃないですか、目黒の庭園美術館(旧朝香宮邸)の暖炉前あたりを参考にしたかしら、とか食い入るように眺めてしまいましたことよ。後でパンフ見たら、羽柴ビル最上階は、最後の謎解きに関連するのでセット組んだそうですが、場所によってはまだ残ってる明治〜昭和初期あたりの洋館を借りて撮ったらしい。冒頭の、どこまでも低層住宅が続く中に東京タワーと羽柴ビルだけがそびえてる東京の俯瞰はどうやって撮ったんだ、と思ったのですが、まあさすがにCGなんでしょうね。CGは白組が担当し、他にも「ALWAYS 三丁目の夕日」とほぼ同じ製作スタッフでやったとか。こういうのを技術の維持継承って言うのだろうか。
 しかしもう一つ特筆すべきは、誰でも気が付いただろうが、いろんなところに「カリオストロの城」が見え隠れするということ。ウェディングドレス姿のお嬢様連れて逃げたり(当然ロープに掴まりながらウェスト抱えてだな。)賊を取り押さえる警官隊は示し合わせたようにどさどさ折り重なるし。高い塔のてっぺんから垂直落下してるところを真横から撮って見せたりするし。
 これも泥棒の物語だし、お嬢様との障害のあるほのかな恋、という物語を踏まえて、意図して盛り込んだんではなかろうかと思うけども。ここまで似せるか、というのが引っかかる方も居ろうか。私は気に入りましたけどもね。

 以下、ネタバレも交えつつ、他に気になった細かいところを挙げてみる。

  • 主人公が高いビルの上からダイブ、というところを上から覗き込むように撮る、というのは、もう「甲殻機動隊」以来、アクションの定番の構図になっちゃってるんですかね。「ダークナイト」でもあったけど。
  • 金城武演じる主人公が「鳩のにーちゃん」になってたのは、もしかして「レッドクリフ」からの関連であろうか、などと勘ぐったり。(いや、どっちが先の仕事か知りませんが、そもジョン・ウーが白鳩のひとだからね;)パンフによるとニコラ・テスラがそうだったのを踏まえてらしいんだけどもね。
  • この映画は実は端役が結構豪華でしたな。回想シーンで登場するお嬢様の亡き祖父侯爵が大滝秀治だったのをはじめとして、序盤に実験助手で出てくる要潤とか、平吉を嵌めた顔に傷のある男が鹿賀丈史とか、ウェディングドレスデザイナーの嶋田久作(「帝都」繋がりかっ?オネエ言葉だけど!)とか。後の三人はいずれも実は二十面相でしたが。出番があれだけなんて勿体ない勿体ない。ところで要潤はこのところ妙な役が振られることが多い気がするし、そろそろ怪優の域だろうか。いや、まだまだ、と言う気はするけど、そうなってほしいものです。
  • 明智を張っていた黒服の男(後で公安だと言っていた)を演じていたのは誰だったのだろう? 目元が帽子で隠れてたのではっきりとは分からなかったが、あの頬の削げ具合に、なんだか見覚えがある感じなのだが……?
  • 小林少年役の本郷奏多は、時々妙に大人びたひねた笑い方をするのがとても良かった。いやあれは明るく素直な小林少年のキャラとしてはどうよ、という方もおられるだろうけどもね。しかしあれは何かの伏線だろうか、と思っていたのだけども、そんなことはなかったらしい。(他にも源治が「本物の二十面相も越えてるよ」と言ったときの驚きの表情とか、気になったんだけど。序盤のツングース大爆発の時の様子とは矛盾するけど、あるいは二十面相に気付いていた、ということ?)
  • 松たか子のお嬢様は、お育ちが良いけども明るくお茶目(天然)で実はたくましい、というあたりはとても良かったのだが、お茶目さ強さが前面に出てくるとお嬢様度が下がっちゃうのが難ですなあ。まあ、「良家の子女の嗜みです」とか言ってるから、可。(こういう台詞もあるので「夢幻紳士冒険活劇編」あたりのファンは見ておくべきだと思うのよ、この映画は。)
  • 二十面相の正体は、どんでん返しとしては真っ先に考えつくパターンだったけども、そこに到るまでに色々勘ぐってしまいましたよ。序盤だけで姿を消すあの人が実は絡んでいたりしないか、とか(その後ほんとに全く出てこなかったから却って驚きましたよ!)上述の小林少年が絡んでないか、とか。
  • お嬢様が二十面相の正体に「手」で気が付いた、というのを考えてるうちに疑問に思ったんだけど、デザイナー→仮面の二十面相への早変わりの一瞬に、彼は仮面、帽子、マントのみならず手袋まではめていたのだろうか?それなんてイリュージョン??;