よこすか芸術劇場にて「渋さ知らズ&ファンファーレ・チォカリーア」ライブ

 でへへへへ、ファンファーレ・チョクルリーアだよ〜、渋さ知らズもどっちも初めて生で聞くんだよ〜、と浮かれて出掛けてきたのだった。いや、ビールとワインで軽く酔っぱらってもいたのだが。
 ただ、このバンドのライブにしては、ホールというのに一抹の不安が。そんなとこに収まるような大人しい演奏だっけ? と。
 でも6月のクストリッツァのライブだってJCBホールだったし、とは思ったのだが。
 入ってみると。どうも客層が変。
 だって妙に年輩者多いし。お着物をお召しのおばさまなんかいるし。いや、若いのとか、年はちょっと食ってるけどどんな仕事してるんだか、というちょっと自由人ぽい恰好の人とかも多いんだけど、きちんとした恰好の年輩の方が目につくんですな。客の入りは1階席はほぼ入ってたようだけど、二階席・三階席以上(結構高い層まであるんだ。構造としてはJCBホールに似てるかも)はがらがら。
 この客層と入り具合に。ファンファーレはともかくとして、渋さはジャズちうよりロックとかもっととんがりまくった前衛ではなかろうか、分かってきてるんかなあ、といぶかしんでいる間に、開演。みんな大人しく座っている。誰も立ち上がらない。クストリッツァのとき、開演前からみんなざわざわしてたのとは対照的。
 ふと、厭な考えが頭を過ぎった。これはもしや、地元横須賀市のこのホールでのコンサートチケット購入会に登録してる皆様が、「渋さ知らズオーケストラ」という名称にだまくらかされてうかうか来ちゃったんじゃあるまいか。
 で、静かに聞いておいでのおじさまおばさまがたが隣にいるというと。下手に立って踊るわけにもいかんのですわ。手拍子してみるくらいがせいぜいで。だから渋さのばりばりのホーンセクションとかダブルドラムスとか玩具のピアノとしか見えないのだが音はとんがったグロッケンシュピールだったりする(ソロあり)ものとかにおおおお、と思っても、誰も立ち上がらないの。最前列あたりの一画だけちょっとノリが良かったようだったが。せいぜい体揺すって手を振るくらい。
 うーむ、うずうずするねー、暗黒舞踏がうねうねしとるし(序盤では暗黒舞踏の皆様方はダンボー((c)あずまきよひこ)様の箱を被り物にしておられた)
 ううむ、不協和音を取り混ぜてうねうねでろでろとかなり猥雑に刺激的な音とダンスを披露して下さるのに、観客の反応が今一だった。彼等の持ち時間50分少々の間、立ち上がって踊った人はほとんどいなかったんじゃなかろうか。(ステージ上では激しく踊ってましたが。あのバナナ隊も結構大変なんだろなあ、高い脚立の上に座りっぱなしだったし、背筋延ばして腕挙げてずっとバナナ振ってるし)しかし演出も大人しいっちゃ大人しかったかもしれん。オブジェ出なかったし。(あれはロックフェスだけなんだろうか?)
 ところで褌に法被姿のMC渡部氏によると、その昔ドイツだかどっかで初めてファンファーレのライブを聞いて、感激のあまり楽屋に訪ねていったのだそうな。当時のファンファーレのメンバー達はかなりみすぼらしいなりをしていて(ありていに言って「乞食のような」。「ルーマニアの乞食バンドと日本の乞食バンドが」とのこと)、そのストラップくれー、だの、リード使ったのでいいからくれー、洗って使うから、だの、しきりと何かしら貰いたがる。そのくれくれ攻勢へ、いいや、これは俺もないと代わり持ってないから!とかいってなんとか断ったのだそうだが。今回来日したファンファーレに再会してみると、誰も「何かくれ」とか言わない。良いシャツ着てるし、良さそうなアクセサリなんかつけてたりする。「ファンファーレが何かくれって言わない!」というのがまず驚きであった、とのことであった。
 さて後半に入ると、交替してファンファーレ・チォクルリーア。(この略称、どっかで統一してくれんかな;検索にかかりにくくって;)薄暗いステージに、メンバーが一人ずつ入ってきては音に加わる。ほんの三本、四本でもホーンセクションが絡み合って装飾符だの間の拍の細かいリズムだの入れるものだからうねうねしてくる。ぐわはは、気持ちええ。しかし耳はちょっと痛い。
 このライブはダンサーとして「ジプシー・キャラバン」に出ていたラジャスタンのバンド「マハラジャ」のクィーン・ハリシュが登場するのも売りだったのだが、まず登場したのはルーマニアの女性ダンサー・セニョリータ・アウレリアであった。や、最初彼女が登場したとき、おかしーなー、ハリシュ氏はあそこまで女装するだろうか、しかも生足出してる(インド人は普通生の臑は晒しませんね)し、胸は本物っぽく見えるし、と首を傾げたのは内緒だ。いやあの、長い黒髪でスタイル抜群の美人なんですけど、クィーン・ハリシュも相当美人の女性に見えるなりですし、目鼻がはっきりしたタイプの似た美人だったんすよ;それに、ハリシュ氏もものすごいウェストとか細くて、動きもしなやかだし、華奢な女性に見えてしまいますからね、ほんとに;
 当初は二人別々に出てきて、それぞれ演奏に合わせてそれぞれの踊りを踊ったのだけど、終盤になると一緒に出てきて、手を繋いで踊ったり、前後に重なり合って膝立ちのハリシュ氏の後ろでアウレリア嬢が踊ったりしてみせたのだった。
 でもって、流石にこの頃になると、ステージ上のメンバーに促されたこともあり、前列側から徐々に立ち上がる人が増えてくる。後ろの方の席でも、座ったままでも腕振り上げてリズムとったりとかね。アンコール直前では六割七割くらいが立ち上がっていたので、なんだー、ちゃんと踊れるんじゃないのよ、最初っからこれやればいいのに、と思ったのだった。
 アンコールはどのくらいやってくれるかな、と思ったら、一曲やったあとで、渋さのメンバーを呼び出して、演奏もダンスもごっちゃになって一緒にやったのだった。ハリシュ氏やアウレリア嬢がバナナ隊からバナナ(長さ30センチくらいあるし、軽そうだったから多分プラスチックかなんかのつくりもの)を1本ずつ借りて、振って踊るなぞも楽し。
 さてもう終わりかな、という頃になっても、渋さのメンバーが一人二人か名残惜しそうに鳴らしていたら、一度引っ込んでたメンバーも戻って着ちゃうし。と思ったら、脇の通路からファンファーレのメンバーが鳴らしながら客席に入ってきて、後部ドアまで演奏して行き、最後はロビーで送り出し。てか、観客大喜びで送り出されやしない。演奏してないおじさん(や、あきらかにメンバー;)が、帽子持ってお金集めて回ってるし。おでこに千円札貼り付けてじょけてみせるし。
 そういうわけで、序盤ではどうなることかと思ったが、最終的には大騒ぎで踊りまくって終わったのだった。なんだ、暖まるの遅いんだから! このツンデレ客が!(まあ、私もか;)
 ついでに言うと、送り出しのロビー演奏も華々しく終わったあと、メンバー達が戻っていくのを見ていたら、金の入った帽子は演奏メンバーじゃないファンファーレのスタッフらしき若者に渡していたようだった。あれは今夜のメンバー/スタッフ慰労会の飲み代になるんかな、などと思ったことでありましたよ。