企画「現代中国のホラー小説」

 林久之氏と、飛び入りゲストということで早見裕司氏の掛け合いの元に進められたが、中盤以降は観客からも盛んに質問や発言が出てなかなか盛況であった。
 で、近年の中国のホラーに入る前に、ちょっと歴史的背景について。中国では文化大革命の時に、宗教とか呪術的な慣習――例えば風水なども――というものを、徹底的に排除したのですね。それは信仰とか信念にあたるものは「共産主義思想」だけにするためだったのだけど、代わりに、そのようなものはすべて「迷信だ」として、科学的な根拠のないものを否定する唯物論教育が行われたそうで。
 中国には古くから、怪談にあたる「志怪小説」というジャンルがあるけれども、そういった文学を愛好家として早見氏が、現在の中国の四十代以下くらいの方に、中国にはああいう文学があるじゃありませんか、と聞いたことがあったそうな。すると「ああいうものは迷信ですから」と言って価値を認めていない様子だったとのこと。これなどは唯物論教育がどのように価値観を左右するか、という一例でありましょう。
 ただし、それも近年、中国の経済発展と大都市化で変わってきているのだそうで。近年では中国でもホラー小説の新作が書かれて出版されるようになり、そこにはいわゆる「都市伝説」が扱われていたりする。過去には「迷信だから」と発表も許されなかったような幽霊話の出版が、許されるようになってみると需要はあるし、現代の中国の大都市生活者は、幽霊やら呪いやらも薄々あると思っているらしい。(おそらく香港や台湾の映画や書籍、特に日本のホラー漫画や小説、アニメ・ドラマなどの影響もあるだろう、とのこと)
 そのようにして発表された中国の小説の中には、女子学生達が怪談話をしながら「唯物論教育を受けた私たちがこんな話をするなんて」と、苦笑するシーンなどもあるのだそうな。
 まあそういった近年の作品のホラー小説としての出来は、かなり面白いところもあるけれども最後でちょっと首を捻るような強引さがあったり、というところもありつつなのだそうだが。このような作品が出てくるようになった、という変化には注目したい、というところらしい。他に、プロの作品以外でも、個人の創作を発表しているサイトなどには、ハリー・ポッターあたりの設定をそのまま借りてきたんではなかろうか、というような雰囲気のライトノベル系の作品などもあるとのこと。やはり、欧米や日本の映画・漫画作品の影響は強いらしい、ということで。