サントリー美術館にて「KAZARI ―日本美の情熱―」展を見る

 夜間割引がある、というので、仕事のあとでいそいそと行ったのである。
 さて、日本の「装飾美術」というような括りがあるとはいえ、展示品は大変に対象が広いんである。そも、順路の最初の部屋に在るのは縄文式土器だし。その後の各時代の時代の工芸品を経て、最後の方は昭和初期の織物(能や歌舞伎の衣装など)まで至るし。
 しかしコンセプトはともかく、サントリー美術館収蔵品ほかの工芸品のうちでも貴重なものや妙なものが大量に並んでいてそれはそれは眼福だったのだった。螺鈿とか、彫金とか、古伊万里とか、根付けと印籠の組の彫り物とか、織物の刺繍とか、眺めながらうーんうーんあううううう、とみっともなく唸り声を漏らしてしまうのだった。どうも私は細かく施された繊細な手工芸てのに無条件で弱いらしい。
 それにしても、装飾工芸というやつは、どうもこう実用から離れたところへ暴走するきらいがあるような。特に安土桃山以降の鎧のバリエーションや、妙な形をした兜何かを見ると思うことであった。(鍬形の大きいのなぞは大人しいもんだったんだな、と思ってしまうような造形多数。どう見ても烏賊、とか、頭の上に鯱、とか。あんなんで馬に乗ったら重くて風に煽られて首捻るぞ;)勿論、その多くは最前線には出ない総大将の旗印のようなものだっただろうし、江戸期に入ってしまうとほんとに装飾品でしかなくなってたりするわけだが。
 まあ実際、装飾なる遊びというか生活の余興の部分にそれだけ財力や情熱を向けられる、というのはかなり余裕が在る状況なのだろうなあ、と思ったり。まあ仏具とか、装飾を施すことが、信仰とか出世とか何か「美」や「数奇」等とは別の切実な要求と結びついている場合もあろうけども、ほとんどのそうした「飾り」は、なくても生きてはいける、という物だったはずだしなあ。
 あるいは、見栄や趣味の力は侮り難しということか。古い時代にも、狭い分野に情熱を滾らせるマニヤがいたということか。
 ともあれ行きつ戻りつしながら展示品を堪能したのだが、閉館前の1時間半少々ではちょっと鑑賞としては足りなかったかも。いやまあ、最初の部分をあんなに舐めるように見なければ余裕だったんだろうけどね;ちょっと誘惑が。