江戸東京博物館にて特別展「北斎-ヨーロッパを魅了した江戸の絵師-」を見る

 北斎は見られるときに見ておかねば、一通り見られるだけ見ておかねば、というので行って来たのである。
 会場は結構混んでいた。みんなそんな北斎が好きか。私も私だが。
 で、今回のこの企画の目玉は、文政年間(1818〜1830、とか)あたりに長崎のオランダ商館から来ていたカピタンの依頼で、北斎または北斎の工房の絵師達が、風俗画を描いていたらしい、というので、そうして描かれた絵がオランダ国立民族学博物館とフランス国立図書館から里帰りしたというもの。あと、シーボルトが持ち帰った日本の風俗の資料のなかにも北斎の絵があったらしい、というのでその展示も。(シーボルトが自分で書いてる日本についての本で、北斎の絵とそっくりな構図の絵があったりするというので)
 しかし、この里帰り風俗画。確かに構図は北斎の諸作にそっくりなものがたくさん見つかるんだけども、「ほんとに北斎か?」と思うところが多い。何が一番違うって、色鮮やかな肉筆彩色画なんだけども、彩色のタッチがどう見ても洋画。他の北斎の肉筆画(掛け軸などの大物)とは全然印象が違う。どこも輪郭周りには細かくグラデーション入れて立体感出してるし(浮世絵だと割と平面的に仕上げますな)、色遣いも和物っぽくないし。あるいは、北斎なり日本国内の絵師の下絵を元に、欧州で彩色したんじゃなかろか、などとも思うのだが。そうでなければ実際北斎の工房で描いたとしても、オランダのカピタンの依頼というのを意識して、洋画のスタイルで仕上げて見せたとか。
 このあたりの違いについては、欧州の北斎研究者達も認めながら、態度を留保してるらしいのだが。どうもこうして「北斎もしくは北斎工房作品」として出されると、そのものの絵としての価値がどうとかよりも、「北斎」としての真贋のほうが気になっちゃっていけませんや。
 しかしその部分を抜きにしても、摺り物も肉筆の掛け軸もあって、さらには珍しい肉筆の屏風なんてのもあって(群雀が愛らしい)、なかなか充実した展示ではございました。富岳三十六景などは山口県立萩美術館・浦上記念館の所蔵のを展示してたのだが、これはほとんどの絵について同じのを江戸東京博物館でも所蔵してて、この特別展の前後半で入れ替えてたそうな。(で特別展の後半、入れ替わった江戸東京博物館蔵のはどうしたかというと、上の階の常設展の方に展示してたらしい)図録も購入したのだが、どうもやたらページ数が多いと思ったら、このあたりの2点ずつあるやつは見開きページに並べて掲載してるんである。刷りや褪色の具合を見せるためらしいんだが。むう、贅沢なんだか無駄なんだか。
 しかし展示が充実しすぎて、結局最後は駆け足になってしまったのだった。観覧時間は2時間半くらい見とかないとだめだったらしい; 最後の方は北斎漫画などたくさん並んでいたのだが。
 まあ図録で見られるからいいや、と思っていたら、図録では掲載の縮尺が結構小さいのだった……や、以前の東博での北斎展の図録にも出てるか。いろいろとっかえひっかえしながらさがすしかないのか。