「魍魎の匣」を見る

 色々言われているけれどもこれは見ておかねばならない引き続き、ということで行って来たのだった。忙しいのに。でも比較的近場に遅い時間でも掛けている映画館があったもので。
 で。
 散々色々言われていたので覚悟して行ったのだけども、思ったより良かったですよ。
  原作者もぜんぜん違う物だと言ってますが、独自に盛り込んだ物や場面でもちょっと感心するようなところはありましたしね。(私が気に入ってるのは少女達の靴紐など)原作から印象的な断片を拾い上げ、それらを独自の素材の間にコラージュして全く別の作品に仕上げた、という感じ。これはこれで面白いと思いますよ。脚本はかなり良かったんじゃないかな。
 いや、「これはどうよ」なところもたくさん――かなりたくさん、あったんだけどね; でも「もっとこうだったらいいのに」と言いたくなるのは愛なんだそうです。(何年か前のSF大会での創作講座に於ける、久美沙織氏の発言に拠る。)

(*後日追記部)
 しかし、「これはどうよ」部分についても一応語っておかねばなるまい。
 原作とのイメージの相異については言うまいが、それでも色々あるのだった。以下箇条書きで。

  • 原作のあの事件の流れと動機は使えんだろう、とは私も思っていたし、そのために動機に掛かる流れを組み直して、久保の設定に大きな改変を加えている。それはいい。戦時中榎木津と一緒だった小者、というのもまあいい。あれはあれでかなりドラマチックであった。ただ、あたくしには、クドカンはやはり今一……; や、独特の雰囲気はあるし、これもありか、と一瞬思ったんですけどね。でも、やっぱりいかん、と思ったのはその、笑うと、前歯が……; あの齧歯類めいた顔は、どうも不気味とか奇怪とかいうよりなんというか……; 妙に愛嬌がありすぎるのだろうか;;;
  • 京極堂と武蔵晴明神社の立地が全く謎; 号外配って自転車が来るかと思えば、関口達は毎回人気のない山道を通ってやってくるし。あんな場所で古本屋が成り立つかーいっ! まあ、「中野」とかいう設定は捨ててるんだろうけど……それにしたって、都心から気楽に行ける場所とは思えん;
  • 街中とか道端とか撮影所とか、屋外のシーンで上海ロケはいいんだけど。戦後の雑多でほこりっぽいイメージを再現するには成功してると思うし。でもそれだったら、場所をもうちょっと選んだ方がよかったんじゃなかろか。路地裏なんかはいいんだけど、中国らしく開けた場所だと、明らかに日本の都市近郊ではないと分かっちゃうような壮大な景観なもので。できるだけごみごみこまこましたところ、起伏や建物や木立が多かったりして見通しがきかないところだったら良かったのに、という気が。
  • あの、匣館で大詰めのところは、長く回して冗長になっちゃってるんじゃないですかね。苦労して上がるのはいいけど、迷ったり混乱したりうろうろしすぎ。見てる側の緊張感も持続しなくなってきてる感じ。あの吹き抜けの場所はもしかすると、未来SFドラマ等の撮影によく使われる春日部の首都圏外郭放水路ではなかろうかと思うのだが、恵まれた背景を得て舞い上がりすぎたんじゃなかろうか、とも。木場が最初一緒に行かない、とか、三組に分かれてそれぞれ迷う、とか、敦っちゃんが気圧のせいかなんかでおかしくなってる、とかいう演出は余計だったんじゃないでしょうかね。さくさく謎解き/対決に行った方が良かったんでは。
  • あの……箱の中久保の造形は、なんとかならんかと; いや坊主で血の気が失せてて作り物っぽくなってるのはいいんだ。でもあのキカイダーだかアシュラ男爵だかは; ちょっと既存のイメージに毒されすぎてないすか;
  • エンディングがあの人のあの姿なのはいいのだけど(元よりこれは乱歩作品へのオマージュと言われる重要なイメージではあるし)あの「箱入り娘」はないでしょーッ!! いや、イメージ映像とは思うけども、あれは、あれなら、ない方がまだしもッ!! 原作通り*1でもいいし、目元とか口元だけちょろっと映すとか、もっと印象的な見せ方はいくらでも考えられるのに!! しかも「ほう」があれかいっ!!(や、あの年の女優さんには無理かな、と思ったけどさ。それならいっそ吐息だけにでもにした方が)
  • エンドロールに流れる「金魚の箱」があれとは! いや嫌いな曲じゃないんだけど(「娯楽(バラエティ)」は買って聞いていたのだ)エンドロールに使うったって「魍魎」に合わせるなら、絶対バラードに編曲し直すとかだと思ってたのに! あのまんまかよ、あの話のあのエンディングの後で!!
  • ざぁちゃんがいない……m(T△T)m ちくしょー、前作は「柘榴さんが愛らしい!」の一点であたくしは全て許したというのに!! 今回は影も形も出てこないって何ッ!!

(追記部終わり)

 ところでパンフ見たらこの映画、あの匣館とか学校とか御筥様とかのシーンは、茨城県内某所で撮ったらしいですぞ。(匣館は高萩の廃工場、御筥様は水戸の弘道館とか)やるな茨城フィルムコミッション

*1:要するに(ネタバレ)干物。