国立西洋美術館にてムンク展

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 かなり前に前売りを買ってあったのに、結局行ったのは最終日だったのだった。あうう。お陰でとても混んでいた。みんなそんなにムンクが好きか。ほんとに好きなんか。こんなへろへろした絵が。(我ながらえらい言いようですが;でもムンクが一般受けしてるってやっぱり信じがたいですよう;)
 で、今回は、一番有名な「叫び」(といってもムンクは同じような構図で4、5枚描いてるはず)は来ていないものの、ポスターには「叫び」に連なるイメージを思わせる「不安」が使われている。赤く黒くうねうねした空の前に点目の人々がこっち向いて立ってる絵である。同様の背景の絵でもう一枚の「絶望」も来ていたのだが、実は今回のコンセプトはよく言われるムンクの「狂気」や「不安」ではないんだそうな。
 ムンクは何度か顧客からの依頼で、連作からなる室内装飾絵画の仕事も受けていたのだそうで。(そういや時代は19世紀終盤、アール・ヌーヴォーの頃だ。ムンクも「人魚」あたりの絵には、そのへんの影響が表れているような)更に依頼された以外にも、何枚かの関連するイメージの絵を並べてみせる(帯状の絵の並び、フリーズ、と呼ぶそうな)という試みをしていたとかで、できるだけそうした連作をムンクの意図通りに見せようと言うのが今回の展示の意図とのこと。
 そういうわけで会場では、ムンクの生前に取られた、連作を並べている展覧会や、画商の部屋で並べて見せている場面の写真を元に、足りない部分は印刷コピーも使って見せていた。最初の方にある「生命のフリーズ」では、「吸血鬼」(元々は普通に首筋にキスをしてる恋人達の絵らしいんだが)や「灰」「不安」「絶望」「生命のダンス」等々と言った幻想的ながらなにかしら不安な空気を醸し出す絵が並ぶのだが、後年に眼科医リンデに依頼を受けた子供部屋用の「リンデ・フリーズ」や、チョコレート工場の職員食堂用の「フレイア・フリーズ」、オスロ大学講堂の壁画などは、割に明るい色彩で穏やかな感じに仕上げられている。(まあそれでもリンデ・フリーズなんかだと、結構筆の跡も生々しくのたくったままにしてあって、これは結局完成したものの、セクシュアルなモチーフが残ってることなどを理由に依頼人に受け取りを拒否されたと言うことだけど。でもムンクに子供部屋の絵を依頼するってのがそもそも間違いではなかろうかと言う気も;)
 特にオスロ大学講堂の正面にあるという「太陽」なんか、普通に爽やかに美しいし。その両側の壁にあるという「歴史」と「アルマ・マーテル」なども、分かりやすく穏やかな色彩でまとめられていて、落ち着いて眺めていられる。
 なんだー、こんなのも描くんじゃないの、とちょっと意外な感じではありましたな。更に後年、オスロ市庁舎のために描かれた「労働者フリーズ」(市庁舎への連作完成自体は後に断念したそうだけども習作がたくさんある)などでは、抑えた鈍い色彩ながら、荒いタッチが普通の人々の無骨で朴訥な印象に合っている感じだし。
 そんなわけで不安と狂気に翻弄されることもなく、至って気持ちよく眺めて回ったのだった。(いや、途中には「マドンナ」とか「腐屍」なんて絵もあったんだけどね)
 さて会場を出てみると、売店グッズや絵はがきを買い求める人々で溢れていたが、私は図版だけを購入して帰宅。でもあの、水面に映った月の「光の柱」のアクセサリは、ちょっとどうかと思うのよ。あれだけ見たって、ムンクの絵からモチーフを取ったとは全然わからないですよ。小文字の「i」のデザインか? としか見えないしな……;