「さらば、ベルリン」を見る

 映画鑑賞会オフであった。今回はソダーバーグの新作、でありながら一昔(いや二昔――もっとか?)前の戦後白黒映画をフィーチャーしたサスペンス。ほんとに全編白黒だし、音楽といい画面の感じといいポスターといい、1950年前後の映画を再現しようとしたらしき造りになっている。(おそらく「第三の男」「カサブランカ」あたり)
 終戦直後のベルリン(というか1945年の7月26日のポツダム宣言あたりから話が始まっているので、日本はまだ終戦を迎えていないころ)の荒廃ぶりは丁寧にちゃんと造っているようで雰囲気があるし、売春婦に身を落として影のあるケイト・ブランシェット演じるヒロインはミステリアスで魅力的なのだけど、ストーリーの展開にはちょっと首を捻るところもある。ヒロインの謎めいた行動には一応最後に説明がつけられるのだけど、物語の途中の様々な局面での動きには、一貫性を欠くところがあるような気がする。混乱や迷いで選択を誤っているいる、という風にもあんまり見えないし。目的がこうなら、どうしてここでこいつを使わなかったのか、とかいうところがいくつかあるような気が。雰囲気を愉しむにはいいかもしれないけども。
 良し悪しを別にして、気が付いたこと・気になったことを挙げてみると、

  • わりと序盤で死んでしまうヒロインの情夫の小悪党米兵をトビー・マグワイアスパイダーマン)が演じているのだが、撮影の効果か、つやつやぴちぴちと大変に若く見える。トビー・マグワイアは既に三十は過ぎているはずだが、下手すると十代くらいに見える。まあヒロインに愛されながらも子供呼ばわりされる、粋がって失敗するという役所なので、そう見えるように演出したのだろうけども。
  • 対するヒロインは年齢不詳。時代背景からして年の割に苦労しているのではあろうし、二十代後半から三十代はじめくらいの設定ではないかと思うが、下手すると五十近くとかいう可能性も。それと、生活のために身を売っている、という設定のわりには、お召し物が異様にいいんである。白黒の画面でさえ分かるくらい。どういう高級娼婦だろうか。
  • ジョージ・クルーニーは無駄に睫毛が長いなあと思った。
  • 映像で示される伏線は大変分かりやすい。刑事の古靴とか、建物内の階段下に溜まった瓦礫とか、妙に長いこと映すなと思っていたら、案の定しばらく後のシーンで活用されているのだった。「セルに描いた岩」のようなものか。
  • 後半、というか終盤で登場する"The Good German"(これは英語原題だけど、彼のことを指すかどうかは不明。冒頭で米軍の偉い人の台詞にあるように、戦争犯罪に問えないドイツ国民一般を指しているかもしれないが)は、なんだか少年のようで大変にかわいらしい。もしかしてヒロインに相当するのはこっちかも。
  • 戦中・戦後当時のニュースフィルムらしき映像も使って、場面によっては背景に合成している様子だったのだが、パンフによるとビリー・ワイルダー監督映画から流用(引用?)しているのだとか。

 映画の後、インド料理店にて昼食を取りながら上記のようなことについて歓談。上に挙げた他にもクラシック映画の諸場面や小道具をフィーチャーしている部分は多々あるらしい。パロディというかパスティーシュというか、コメディにしているわけではないからオマージュであろうか。他にも当時の雰囲気を出すための工夫は色々挙げられるが、映画製作だけでなく、日本版のポスターも随分凝ってる、という話になる。題字などは、最近ではついぞ見かけないレタリングになっているが、職人さんが残っていたのだろうか。それとも過去の名画ポスターなどを参考に作成したのだろうか。ご存知の方おられましたら情報お願い致します。m(__)m