レオナルド・ダ・ヴィンチ展を見る

 ビル・ゲイツが買ったダ・ヴィンチ肉筆の「レスター手稿」を見せるということで、興味深くはあるのだが、絵画展ではないしどーしよーかなーと迷っていたら、終了間近になったのだった。しかし、ちょっと某お水関係の話題の場所を見ているうちに観覧意欲が盛り上がって来たもので、平日割り引き券が使えるうちにと仕事の後で行って来た。森アーツセンターギャラリーは夜10時まで開いているのだ。
 考えてみればあの時代のフィレンツェネオプラトニズムの砦だったのだった。(フィチーノダ・ヴィンチより一世代かその位上だったかな?)ダ・ヴィンチがネオプラトン学徒だったりヘルメス学の徒だったりすることを示した資料があるかどうかは寡聞にして知らないが、どちらにしても基本的なことはあの時代の知識層の(ことに技術系の)基礎教養だったはずである。だいたい鏡文字なんて魔女狩りとか悪魔崇拝と結び付けて語られる事の多い代物じゃなかったかな? まあ、ダ・ヴィンチが鏡文字で思索のメモを取っていたとしてもそれが悪魔崇拝や神秘学を示してるとはあんまり思わないけどね。確か特許権を主張した最初の人物だと言う説もあったくらいだから、単に独自技術を盗まれる事を恐れての暗号化でありましょう。
 しかして、実際に行ってみると、レスター手稿は非常に読みづらい展示の上に(劣化予防のためライトを抑えて、一定時間ごとに点滅するようになってるのだ)、文字ばかりで画面としても地味なものであった。一通り見ようと努力はするものの、あんまり頭に入らず。(そらそーだ、現物見ても鏡文字ラテン語なんて読めないし)しかし、意外なことにこの展示会は目玉以外のものが面白いのだった。実験装置や発明の模型とか、スケッチ入り他の手稿の展示(おそらく複製品だと思うが。でなければ肉筆ではなく直後に出版された印刷物)なんかが。
 ところでダ・ヴィンチは、画家の他に建築家だったり土木技術者だったり発明家だったり論客だったりしたらしいが、やはりは画家だったのだろう。最後の方の明るい部屋に無造作に(といってもガラスケース内)置かれた16〜17世紀の古書の類に私は小踊りしたのだった。素描にしたって結構な画力だし、印刷物だと一応デザインとか考えてあるらしくて楽しいし。装丁はぼろぼろになってるものが多かったが、フィレンツェのマーブル紙を使ってるものとかもあるし。うわあい、こんなの置いてるなんて一言も言ってなかったじゃん、と。
 とりあえず、ダ・ヴィンチ本人に興味がなくとも、是非その筋(どの筋だ;)の方には見ておいて欲しいところであります。いやだってなんだかねえ、なかなかあのあたりのあの時代の実物を見る機会はないことですから。