国立西洋美術館にて「ヴィルヘルム・ハンマースホイ展 −静かなる詩情−」を見る

 しばらく前から西洋美術館の前の看板を何度となく見ていて、なんとなく気になってチケットを買ったのだった。折角だからというので見に行ってみた。
 ハンマースホイなる画家については全く知らなかったのだが、「19世紀末デンマークを代表する」「北欧の象徴主義美術を代表する最も重要な作家のひとり」だそうだ。
 でだな。
 なんというか。
 いや、巧いんだ。技量は確か。だけど、彩度を抑えた室内の人物画(モノトーンとは言わないがベージュの薄闇に黒衣の人物とか)とか、人影を全て排除してこれでもかと仄暗く描いた風景画、なんてのが連なっていると、なんというか、大丈夫かこのひと、という気にはなってくる。
 いずれも硬質に淡々とした画面を作っているので、妙な暗い叙情に引きずり込まれるということはないのがまだ幸いだが、続けて見る物では無いような気がする。もっとも、そういう中に、抑えた色彩の風景の中で湖面の反射光が明るく描かれていたりすると、反動で大変に救われたような気になってしまうのだが。
 ――でもなあ、同じ家(コペンハーゲンはストランゲーゼ25番地)の室内の、白い扉と白っぽい壁の陰影に木目の家具、装飾品は数枚の彩度のないエッチング額のみ、という場面に、黒衣の奥方(しかもほとんど顔はこちらに向けてない)が居る図、というのを、まとめて6、7枚も見せられると。流石にちょっと勘弁してくれ、という気にはなってくるのだ。
 このあたりの絵も、それぞれ別々に見たらもうちょっと和やかに楽しめたのか。どっちにせよ、まとめてみるもんじゃないよなあ、と。
 ――いや、仄暗い影だけで構成されていて、陰惨なものは何も描かれてないはずなのになんだか滅入ってしまったカリエールに比べたら、随分とましであろうか。
 この展示ではハンマースホイの他に、同時代のデンマークの画家として、ピーダ・イルステズ(奥方の兄上、だからハンマースホイの義兄にあたるそうな)とカール・ホルスーウの作品も数点ずつ展示されていたのだが。確かにハンマースホイの影響を受けているらしく、同じように淡々と静謐な印象で描かれている。ただしこちらのお二方の作品は、柔らかい色彩が入る分だけ、相当に印象が和やかなのだった。――それは、凡庸ともいうかな? まあ突き抜けた印象はないのだけども、これはこれで、需要がある絵ではないかと思う。
 流石に図録を買う気になれず、常設展示へ入って閉館時間まで見て回った。現代美術の部屋はまだ当分休業らしいですよ。