特急列車に乗って

祖母が亡くなつたので急ぎ帰省した。
都会を離れる帰省の列車は空いていた。
(中略)
連日の激務が祟つてすつかり寝入つてしまった。

白河夜船で昔の夢を見ていると、何時の間にか前の座席に男がひとり座つていた。
(中略)
男は匣をもつている。
大層大事そうに膝に乗せている。
時折匣に話しかけたりする。
(中略)
「ほう」
匣の中から聲がした。

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なんてえ素敵なことはなかったんである。押絵の包みを携えた男と出会うなんてこともなく。
 葬儀のために田舎に行ったのはほんとだけど、今時特急列車で「前の座席」のある対面式の配置にはなってないわな。邪魔箱(世間一般にはキャスターと呼ばれる)を引きずった人々は見た気がするけど。あれ人ごみでは禁止してほしいなあ;いや楽なんだろうけど、どうして後ろにあれを引きずると途端に周囲の迷惑を顧みず傍若無人になるのだろう。
 仕方無いから自分で「ほう」と言ってみたりする。

 松本駅コンコースのぺかぺかガラス張りへの改装に驚いたりする、そんな旅でありましたよ。