「ザ・マジックアワー」を見る

 うーん。
 愉しまなかった、とは言わない。ただその、こういうシチュエーション・コメディの定石と言う奴のうちには、どうにも合わないものがあるらしい。
 例えば秘密や企みを抱えてて、それが暴かれそうになりながら(暴かれたら悲惨な目に遭うことが分かっていながら)、ぎりぎりのところですり抜ける、というお決まりのあれね。この映画の中盤で、西田敏行演じるボスに対して妻夫木聡演じる主人公(なのか?)の小物が仕組むペテンと、それを知らずに天真爛漫に役者業をやってみせる佐藤浩市のやりとりなんかは、はらはらを通り越してなんだかいたたまれなくなってきましたよ。いや、お約束としてなんとかして切り抜けるんだろな、というのが分かってても、なんだか。
 随所に盛り込まれるメタな「作り物じみた」演出もちょっと辛かった。あれは分かっててやってるんだろうとは思うけども、序盤の妻夫木聡の「畜生、デラ冨樫がいてくれたらなあ」とか、綾瀬はるかの「まるで映画の世界」とかも。――あれは、どこまで演出で棒読みさせられてるのだろう。綾瀬はるかはもしかすると演出じゃなくガチではなかろうかと思うのだが;
 まあ、佐藤浩市演じる役者と、その周囲の裏方さん達の尽力が報われて、という結末は結構愉しんだのだが。それと、その最後の大仕事のために発破をかけるような役割になる、柳澤愼一演じる老俳優がなんだかじわじわよろしい。このあたりのキャスティングも難しいとこだったでしょうなあ。
 しかし、本編中よりも何よりも、私が一番笑ったのは、「市川崑監督の思い出に」という一行が出た後のキャストロールのレタリングだったのだった。「犬神家」やないかっ!! やるなあ! と。
 いや、本編もあのくらい市川作品を忍ばせてくれたら良かったのになあ、とか思ったのは内緒だ。劇中劇で出てくる映画シーンは、ちょっとわくわくしたしね。