東京都庭園美術館にて「アール・デコ・ジュエリー−−宝飾デザインの鬼才シャルル・ジャコーと輝ける時代」展を見る。

 ひかりものの展示、というので気になっていたので、晴れたところを見計らって出掛けてくる。ベル・エポックのひかりもの〜、ヌーヴォーほどエレガントじゃないけどちょっと楽しいデコのひかりもの〜、と浮かれて庭園美術館へ。
 比較的地味な宣伝だったためか、まだまだ会期に余裕があるためか、会場は割と空いていて見やすかった。ただし、どこかの地方の熟年バス旅行かなんかの団体客がまとめて入っていたのにはちょっと怯んだが、慣れない風ながらも皆様穏やかに見て回ってらしたので問題はなし。(しかし、何を見せられるかちゃんと知らせずに連れてくるのはちょっとどうかという気もするなあ)
 展示は、宝飾品のデザイン画と当時の女性ファッションを描いたイラスト等が8割、そこにぽつぽつと小さいながらも精緻で豪華な宝飾品現物や大物の絵画が置かれる、という形であった。副題にもあるとおり、全体の半分以上(多分)がカルティエのデザイナーだったシャルル・ジャコーによるもの。まあデザイン画だから小さくて地味ではあるのだが、宝飾品や工芸品に興味のある人間にはなかなか面白いと思う。ジャコーのデザイン画は輪郭や素材を示すだけじゃなくて、ちゃんと石の質感が分かるようなハイライトまで入ったイラストレーションみたいに描かれているし。(プレゼンテーション用、といった意図もあったかな?)
 それに何より。アール・デコ・ジュエリーというのであんまり期待しないで入ったら、ラリックのジュエリーがあるなんてどうして誰も教えてくれないのさー!! がうがう!(←ちゃんと調べて行かなかっただけです;)と。
 そんなわけで、私的にはほとんどそれで入場料の元は取れてしまいましたよ。いや最初の方に、デコの前の段階としてヌーヴォーの作品を紹介したスペースがあって、そこにラリックのデザイン画が数点と、水晶でできた魚のモチーフをあしらったブローチ、角素材で出来た花をあしらった大振りな櫛の2点が展示してあったので。(ラリックはデコの時代にも活躍してたはずだけども、ヌーヴォーの代表としてしか展示してなかったな)いやもう、小ぶりながらも水晶のブローチなんかまことに美麗ですよ。それはそれは眼福でございました。
 ついでに、同じ部屋ではドゥレームも名前を挙げてあるのだが、これは小さく簡素なデザイン画数点のみだったのがちょっと残念。
 ジャコーのデザインはデコの幾何学模様に至る前段階として、ギリシャ・ローマ美術あたりに着想したらしきモチーフが多かったですな。一見幾何学的縞模様に見えて、端の方には唐草模様がついてるギリシャ神殿の柱文様だったりとかね。
 しかしアクセサリの台座を軽くするためにプラチナを導入するとか、金が品薄で高騰すれば彫金技法で華やかに見せるとか、デザイン上以外の創意工夫の歴史なんてのもなかなか面白い。まだ精密加工機器がなかったであろう一九世紀にもかなり緻密な細工物があったというのを見るも楽しいものでございました。
 人が少ないのを幸いに行きつ戻りつしながら堪能して、すっかり暗くなった頃に図版を買って出たのだった。さすがに今回はお庭まで回る気にならなかったなー; あそこは、午前中から行くべき場所か。