フランスの至宝―エミール・ガレ展

 以前見たサントリー美術館のようなのかと思ったのでちょっと迷っていたのだが、北澤美術館や海外からも結構見たことないのが来ているらしい、というので行ってみたのだった。
 まあ行ってみて良かったですね。かなり展示品は充実しておりました。人も多かったけど。
 しかし展示とタイアップでコンサートやったり、ガレをイメージした曲を作って会場で流したり、という企画の方はちょっとどうかと。いや成功してたら面白かったんだろうけど、このイメージ曲というのが、トロンボーンが良く響く、伸びやかで長閑でほのぼのした曲だったもので。
 全然ガレじゃないじゃん
 黒の濃淡の中に烏賊とか海藻とかでろでろ流したり、草花にしてもしどけなくまつわりついたり半ばとろけてたりするような造形なんですが。魚とか蛙とか蝙蝠とか、そういうものに似てるけどなんだか分からない怪物なんてえモチーフも使うし。ガレ自身「悲しみの花瓶」シリーズなんてえ名前を付けてたりする。
 それこそ、その筋の人々が「いあ いあ ふんぐるい むぐるうなふ」とか唱えていそうな造形群に対して、あの曲はないでしょ、と。売店ではこのイメージ曲の他に「マイ・フェイヴァリット・シングズ」なんかも流していたのだけど、どっちかって言うとこの方がずっとガレのイメージには合いますな。軽やかなのにメランコリック。
 しかし、もしかするとガレを捉え損ねていたのはこのイメージ曲の作者だけでもないかな、と思うところも。というのは、展示の最後の方には、ガレの没後遺族が引き継いだガレ商会で製造されたガラス製品が展示されていたのだけど、これが、やはり何か違う。確かにガレ本人の一部の物に良く似た品だし、綺麗は綺麗なのだけど、どこか整いすぎているというか、光りすぎているというか。恐らくはガレの遺作をなぞろうとする余り、あの独自の「崩し方」というのができなくなっちゃったんじゃないかと。
 で、ミュージアムショップには「ガレ風」と称するレプリカの器やランプも置かれていたのだが、これもなんか萎え。いや私もミュージアムグッズは割と好きな方なんですがね。しかしこのあたりの「ガレ風」の代物(しかも"galle"とかそれに似たサインらしき物まで入れてある)は尽く何かまがい物じみた安っぽさを感じるのだった。
 実際、同じショップの商品の中にも、ガレのモチーフを模したらしいガラス器だけど「ああこれはなんかあると嬉しいかも」という物もあって、そういう物はまず"galle"なんてえサインもどきは入ってない。一介の素人が言うのも偉そうだが、おそらくこれは、ガレのイメージに触発はされてるけど、今の工芸家が作者なりに工夫を凝らしてるという違いじゃなかろうかね。
 偉大な造形芸術でも、囚われ過ぎちゃいけないということか。

 それはそうと、ガレ商会は結局1931年までで商売を畳んでしまうのだが、ドーム兄弟社はいまだに続いてるんだそうな。知らなかったね。
 展示されてた現在のドーム社のガラス器はアール・ヌーヴォー風でもないようだったけど。やっぱりある程度新世代の独自展開を許さないと、工芸品に未来はないという事か。ほぼ同じ時代に起源を持つラリックとか、ウェッジウッドやその他の陶器製造業者などの例を見ても。