接客黒猫

 退勤途中の路上で、黒猫に出会った。
 体格も毛艶も良く、かといってデブでもなく俊敏で、長い尻尾が見事だ。首輪はしていなかったが、目やにも疥癬の瘡蓋も虫さされ痕も見えず健康そうだったので(いや黒猫だし暗かったせいかもしれないが。触った限りでは)野良ではなくそのあたりの外飼い猫ではなかろうか。
 この黒猫氏、慎ましい態度ながらも、とにかくやたら懐こいのだ。初対面のはずだが首筋やら額やら撫で放題だし、脚に体擦り寄せて行ったり来たりするし、路面に転がって腹見せるし。
 それに何より「あ、こいつ接客業だ」と思った事には、猫パンチをくらったのだが、全然爪が立ってないのだ。肉球パンチ。
 すげえ! 八年も一緒に暮らしてもマダムにはいまだにばりばりに爪立てられるというのに!(いや、それはマダムの方に問題あり……か?)あーたなかなかのテクニシャンねっ!
 などと浮かれつつ、黒猫氏が路上駐車の車の下に入ってしまうまで遊んだのだった。いやあ、ああいう猫を育んでいるとは、なかなか港区も隅に置けない。(だから東京じゃ真ん中だってば)
 また会えないかな。