「かもめ食堂」を見る

 日中までは、「へー『ALWAYS 三丁目の夕日』まだやってるんだなー、見ておこうかなー」などと思っていたのだけど、殊能将之氏の日記で紹介されていた、柳下毅一郎氏による罵倒を読んで気が変わった。いやまあ、柳下氏の言うことが全て真実だとしても、それでも『三丁目の夕日』には見るべき美点もあるんだろう、とは思うけども。(だってオチは「鈴木則文」だしさあ)とりあえず、「かもめ食堂」もいつまでも掛かってる保証はないのだった。この規模の上映にしてはかなり好評なようだけども、それでも油断はできないのだった。
 と、いうことで見てきました。
 確かに、何が起こる訳じゃないお話。上映前に予告で流れた他の映画のスペクタクルに比べたら、驚くほど地味だ。(ちなみにこの時流れた予告は「LIMIT OF LOVE 海猿」「連理の枝」「デイジー」「M:I-3」など)
 でもそれが不満という感じはしないのだった。中盤までは、小柄で一人ぼっちなのにしゃきしゃきと思い切りの良いサチエ(小林聡美)と、大柄でごついのに(いやまあ、片桐はいりですから)どうも小心でまごつきを隠さないミドリの対比で描かれる。大爆笑ではないけれども、くすぐりをたくさん仕掛けられている感じ。で、ここに加わる二人より更に年輩のマサコ(もたいまさこ)が、ロストバゲージに呆然としながらも、一旦腹を括ると何があっても異様に落ち着き払っているのだ。フィンランド語も分かんないのに。(まあ、態度とか動作とかから判断してるんだろうとは思うんだけどさ)
 この「ふふふ」という感じの楽しさを伝えるのは難しい。とりあえず、料理が美味しそうなのは確かなんだけども。(握りたてのあったかいおにぎりが食べたくなりましたよ。あと焼きたてのシナモンロールね)
 敢えて言うとすれば、異国とはいえ相手も善意の人間で、殴り倒し/撃ち殺して逃亡することで片付けるわけにもいかないだけに、かえってまごついたり不安だったりするというドラマ、ということかな。日常の人間関係を穏やかに幸福に保つのは、下手をすると襲撃や陰謀よりもスペクタクルかも。
 ところで、マサコさんのあのトランクの中身は一体何だったんでしょうね。あれだけがどうにも説明のつかないファンタシィのようだけども。それと、彼女が最後の所であのグレ白猫を、一体どうしておいてかもめ食堂に来ているのかが気になるのだった、猫狂いとしては。(じーさん、猫捨てるなー! いや、もしかしてあれは、マサコさんに何かを見とって、猫に託した、のか?;)