「姑獲鳥の夏」観了

 前売りがあるので思い立って某所シネコンへ。
 久しぶりに邦画の予告編をたくさん見たら、なんだかそれだけで元をとったような気になってしまうお手軽なあたくし。(「クロノス・ジョウンターの伝説 (ソノラマ文庫)」って多分そういう話じゃないと思うんだけど、まあこれはこれでいいかもしれんと本編も見ずに思う)
 で、「姑獲鳥の夏」だが。
 なんだ、思ったよりずっといいじゃーん、というのが率直な感想。映像は美しいし、タイトル後の戦後の写真映像の使い方とか、夢とも現ともつかないみょーな構図の取り方とか、ちょっと懐かしく埃っぽく心許ない、妖しげな雰囲気は随分と出ている。所々妙なところもあるが(度々「関様は不思議な方です」って、何が不思議だと思ったのかは教えといて欲しいわ)これはこれで有りと思いますね。テンポを上げるカットバックがちょいとちゃかちゃかしてると見えるとこもあったが、あれは好きずきでしょう。長々しく説明されるより注意を惹く、という効果も在りかと。
 「原作読まずに見た人に分かるのか」という前評判に心配しながら見に行ったのだけど、見てみたら、なんだ結構細かいとこまできっちり説明してるじゃん、と納得。鬼子母神の由来の説明まで入れてるし。(今時の若い者は知らんかのう、あたくしは幼少の頃「ブラック・ジャック」と高階良子著「赤い沼」で知りましたが)
 まあ細々した背景の説明は、おもにキャラクターの台詞と「紙芝居によるダイジェスト」によるから、駆け足の感はあるかもしれないけども。――ああ、普通の人は「憑き物筋」とか「六部殺し」とか「不動明王生霊返し」(いざなぎ流ですな)なんてえものを知らなければ戸惑うのか。いやよく考えたら、私も京極作品を読み始めてから紐解いてるところが多いんですが。
 まあこれを「わからん!」「これはだめ!」という皆様には、引っかかりがあったら色々読んでみると宜しいですよ、と言っておこう。原作だけじゃなくって、石燕とか、小松和彦氏の著作とか。
 というかね。実を言えば個人的には、「ざくろさんが愛らしい」という点だけで、七割方は許してましたんで。いやあ、良くまあ、ああも和やかで達者な猫優がいたもんですなあ。原作に色柄の記述がないとはいえ、鼻先の柄にインパクトのある黒白タキシード。突然抱え上げられてちゃんと甘えてるし。突然塀の上に現れて鳴いても甘え鳴きだし。敦子嬢が来てご飯作ってくれてるシーンなんか後ろで何げに猫飯いただいてるし。なんて愛らしいのざーちゃん。うひひひ。(←ばか;)
 ――と、猫に爛れた人間の感想はあんまり作品の質を判断する役には立たないんで、まあ見て判断してくださいまし。私がどうしても駄目だと思ったのは、京極堂が関口の依頼を断った後の台詞「偽善者ぶるな」だけでしたんで。(「『偽善者』ぶる」んだったら、ほんとは良い人の照れ隠しじゃん)明朝体フォントのみ画面についてなどは、あたくしは気に入っております。昔懐かしい「犬神家の一族」みたいだなあ、と。「假想現實」まで出すとは思わなんだけども。
 ところで「それは脳が生成しているのだ」「現実とは違う」って映画の内部で繰り返し言うのは、考えてみると高度にメタな仕掛けかしら。